君を咬み殺す3 | ナノ




両手に花?
《沢田綱吉》

 一瞬で消え失せたスクアーロの声に続いて、冷ややかな声が響き渡る。
 ツナははっと息を呑み、その声音を聞いた雛香もまた目を見開いた。
 ――この声……!

《……10日後にボンゴレが最強だと、証明してみろ》

 ブツッ、途絶える通信の音。

「……切れた、な」
「あんにゃろう、好きなことだけ言いやがって!」

 呆然と呟く雛香に、獄寺ががうっと悪態をつく。

「まあどっちにしろ、奴ら今回は味方みてーだな」

 リボーンの言葉に、ツナが複雑そうな顔をする。だが、雛香は思わず口元が緩んだ。

 脳裏をよぎるのは、ししっと笑う金髪王子に、ああ?と不機嫌そうに唸る銀髪、それから。
 ふわり、浮かぶ小さな黒い姿が浮かんだところで――あ、と思い出す。

 そうか、あの生意気でお節介な、頼れる霧の赤ん坊は、
 もう。

「何考えてるの」
「わっ?!」

 いきなり頬を引っ張られ、口から間抜けな声が飛び出す。
 反射で頭上を睨みつければ、無表情に小首を傾げる、黒い瞳が見下ろしていた。肩を支えられているせいで、これが案外距離が近い。

「何すんだお前は」
「君が変な顔してるからでしょ」

 ぱっと手を放した相手は、これまた微妙にずれた答えを返してくれる。チッと雛香は舌打ちをし、つねられた頬をごしごしこすった。
 それが気に食わなかったらしい。ムッとした顔になった雲雀は、なぜかぐいっとこちらの手首を掴んできた。

「!ちょっおま、何すんだ」
「君こそ、」

 何か言いかけ、雲雀がおもむろに口をつぐむ。は?と眉を寄せる雛香から、ふいっと視線を外し、相手は小さく口を開いた。

「……体は、大丈夫なの」
「ハ?何?」

 ぼそり、呟かれた言葉は低すぎて聞こえない。雛香が耳に手を当て首を傾げれば、雲雀はますますむくれたようにそっぽを向いた。

「なんでもない」
「はあ?」
「……ちょっとお2人さん」

 わけがわからず首を傾げれば、ここで隣から低い声。

「え。……て、雛乃」
「仲がよろしくてけっこうだよ、うん別に僕いいけどね?……でも」

 反対側、同じく雛香の肩に腕を添えていた雛乃が、ぷくっと膨れて雲雀を睨む。

「とりあえず近すぎ雲雀さん、今すぐ雛香のありとあらゆる表面からその手を放してもらえませんかね」
「「表面」」

 背後、一瞬で真顔になったツナと獄寺が同時に突っ込む。

 ぐ、と眉を寄せ見下ろす雲雀と、
 む、と口を曲げ見上げる雛乃。
 その真ん中、両者に腕を取られて固まった雛香は、これは一体どうしたものかと、口元を引き攣らせ目を泳がせた。

 見かねた入江が「あ、あのさ、ところで君達」と声を掛けなければ、その後自分が無事だったのかどうか、雛香には自信がない。





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