君を咬み殺す3 | ナノ




白蘭の策略
《……イタリアの主力戦も、日本のメローネ基地も、すんごい楽しかった》

 言葉とともに、不意に弾ける電子音。

「!」「なっ……」「わあっ?!」「白蘭、さん……!」
《ボンゴレの誇る最強部隊の本気が見れちゃったりして、前哨戦としては相当有意義だったよね》

 楽しげに笑う、白い男が――突如、ツナ達の目の前に姿を現す。

《メローネ基地で僕を欺こうと、必死で演技する正チャンも面白かったなあ》
「……!!じゃあ、僕が騙していたのも……!」

 まさかの言葉に、入江は一気に青ざめる。
 ザザッ、ホログラムでできた相手は、いかにもおかしそうに言葉を紡いだ。

《うん。バレバレだよ》

 信じられないと、凍りつく入江。
 その背後で、ツナ達もまた息を呑んだ。

《……しっかし、正チャンもつくづく物好きだよね。まだケツの青いボンゴレ10代目なんかに、世界の命運をあずけちゃうなんてさ》

「……命運?」
「ぜんっぜん意味わかんないけど」
 思わず声を漏らした雛香の横、ぎゅっとその腕にしがみついた雛乃が、白蘭の姿を睨みつける。

「僕、あいつ嫌い」
《本当はこのまま、息つく暇もなく戦力を投入してボンゴレを消すのは簡単なんだ》

 雛乃が睨む先、ミルフィオーレのボスは流暢に言葉を連ねていく。

《でもここまで楽しませてもらったのは確かだし、信頼してた副官に裏切られたとあっちゃ、リーダーとしてのプライドにかかわっちゃうだろ?》

 ぎくりと体を強張らせた入江に微笑んで、瞬間、白蘭は視線をこちらに向けた。
 真っ直ぐに――雛香の方へ。


《……それに、雛香ちゃんも、まだ"準備期間"のようだしね》


「――ッ?!ぐあっ……?!」
「雛香?!」

 途端、目の前が真っ白に弾けた。
 予兆もなく、突如頭を殴られたような衝撃に、雛香はその場に膝から崩れ落ちる。

「雛香ッ?!雛香!!」
「……ッ……?う、っ……」
「雛香?!どうしたんだ?!」
《……やっぱり、まだ早すぎたかな?》

 こめかみを押さえ膝をつく雛香に、真っ青になった雛乃が名前を叫ぶ。
 その反対側、すぐ隣に跪いた雲雀は、そのまま床に倒れ込みかけた雛香の肩をとっさに支えた。

「……ッ、ま、た……っ」

 なぜ今の今まで、忘れていたのだろうか。
 カプセルの中、意識を取り戻した時は、それどころではなかったからか。

 すぐ前、微笑む白い男に――意識を失う前、同じように声をかけられ、痛みと記憶の断片を与えられたーあの、出来事を。

「ッ……!はッ、……!、」
「雛香!しっかりして!」

 ――また。まただ。
 眼裏をよぎる情景。見覚えのない、でも知っているような姿の数々。声。
 頭の奥が鋭く痛む。熱く重たくなっていく頭を支えることができず、雛香はがくりとうなだれた。
 感覚という感覚が、滲んで遠ざかっていく。


《……どうしてかなあ。僕はいつも、大切に思っている副官に裏切られるんだよねぇ》


 最後に、奇妙な呟きを聴覚に残して。






「ッ、う……、ッ」
「雛香……!」

 同じだ。さっき、カプセルの中で目覚める前。
 あの妙な丸眉毛の剣士と出くわした際の雛香と、同じ。

「雛香、なんで……っ」
「その手を放して」

 ずるずると地へ滑り落ちていく雛香に、縋るようにしがみつく弟の手を引き剥がす。
 息を呑む雛乃を無視して、雲雀は雛香の腰に手を回し、横抱きにかかえた。

「……って、ちょっ!どさくさに紛れて何やってるんですか雲雀さんっ!」
「本当にどこまでも煩いブラコンだね。それより、辺りの様子を見てみなよ」

 それは僕の役目なんですけど、とかなんとか叫ぶ弟を一瞥し、フン、と雲雀は鼻を鳴らす。
 え、と雛乃が目を向けた先、


《――楽しみだね、10日後》


 ひときわ愉快そうな声音とともに、全てが白く爆発した。





- ナノ -