覚えのないはずの記憶
「……は?」
唖然として、振り返る。
気配に全く気がつかなかったことにも焦ったが、それより掛けられた声の調子に驚いた。
敵意、殺気、闘志――どれひとつ、見当たらない声。
こんな場面で聞くにはあんまりなほど、それは喜びに満ち溢れた響きを伴っていた。
《……久しぶり、かなあ。本当に》
「……?」
振り返った姿勢で、雛香は固まる。
自分よりやや後ろ、距離を置いた地点で佇んでいるのは、
やはり見覚えのない、真っ白な頭の男だった。
「……誰?」
《あは、酷いなあ雛香ちゃん。確かに随分久しぶりだけど、僕の事を忘れちゃったってことは、無いでしょ?》
「……?」
《あ、それともホログラムだからダメなのかな?でもゴメンね、正チャンの目をかいくぐってできるのって、コレがギリなんだ》
「……何なんだ、あんた」
こちらの困惑を完璧に無視し、ぺらぺら話す相手に警戒よりも苛立ちを覚えた。
白い髪に目の下の妙なアザ、ついでに言うならその白い隊員服は、紛れもなくミルフィオーレの者、つまり敵だと判断するにふさわしい、そのはずなのに――。
《思い出してくれるよね?……雛香ちゃん》
――なぜだか、銃を向ける気にはなれないのだ。
「……だれ、だ」
《白蘭。それが、僕の名前》
「びゃ……、ミルフィオーレ、ボス……」
《うんそう。でね、雛香ちゃん》
ザザ、微妙に白い姿がブレるのは、通信に支障が出ているからか。
《……君も、僕のファミリーの一員だったんだよ?》
グラリ、
世界が、歪んだ。