表裏
無事ミルフィオーレのアジトに侵入、
格納庫で遭遇したデンドロ・キラムをツナが撃破し、良い幸先を切っていたのだが――。
ヴー、ヴー、ヴー……。
「!この警報……」
「敵に見つかったのか?!」
「ジンジャーの奴……予告通りに通報したというわけか……ぐっ」
「ムリしちゃダメだよラル、ジンジャーにやられた傷が……」
突如現れた因縁の敵、ジンジャー・ブレッドの爆撃から間一髪で逃れたラルを、雛乃は心配そうにのぞき込んだ。
だがラルはうっとうしげに舌打ちをしただけで、すぐさま立ち上がり決然と言い放つ。
「かまうな、雛乃……今は、すぐに警備システムを破壊に行くんだ!」
「おう!!」
不快な警報が鳴り響く中、ツナ達はいっせいに走り出す。
その1番後ろ、ラルの横へと並んだ雛乃は、腕をかばいつつ走る彼女へ、ちらりと目をやった。
「……なんだ、雛乃。今は、走ることに集中しろ」
「体の調子良くないんでしょ。休んだ方がいい」
「馬鹿言うな、この状況で何を言っている」
前を走るツナ達に聞こえないよう、小声で会話を交わす2人の頭上、警告音は未だ甲高く鳴り響く。
「……ラル、自分をもっと大事にしなきゃ」
「余計なお世話だ」
今にも鼻を鳴らしそうな様子で言うと、ラルは困り顔をする雛乃を横目で見た。
「……その無駄に勘のいいところとおせっかい加減……本当に、よく似ている」
「?」
唐突なラル・ミルチの言葉に、雛乃はきょとんと首をかしげる。
「お前の兄だ。……あいつなら、良い門外顧問になっただろう」
今、次期門外顧問のお前に言うのもなんだがな。
そう呟き前へ向き直ったラルの横顔を見つめー雛乃は、ふっと微笑んだ。
「……違うよ、ラル。雛香は、良い門外顧問に"なっただろう"、じゃない」
そっと、小さく囁かれた言葉は、警報に紛れかき消されていく。
――良い門外顧問に、"なる"んだ。
***
「――許可するよ、スパナ。基地の細かい3Dマップを、ダウンロードしよう」
「い、入江様!」
部下の牽制を無視し、入江正一はスパナにボンゴレ迎撃の命を伝え、通信を切る。
「……いいんですか?トップランクとはいえ、スパナ氏はブラック……」
「今はブラックもホワイトも関係ない。ここまで侵入を許してしまったボンゴレを、完全に撃破しなくては」
「そうは言っても……」
「それに、僕も技術畑出身だからニオイでわかるんだ。彼は機械への純粋な熱意で務めてくれている、信頼できる男だよ」
そう言い切り、入江はメガネをかけ直した。
――それに、この基地のマップなどくれてやっても、何も困りはしない。
どうせ自分には、メローネ基地という大きな匣があるのだから。
そこまで思考を巡らせると、入江は己の指に嵌まるマーレリングをじっと見つめた。
よみがえるのは、幾人ものボンゴレの影。
『あとは俺が死ぬだけ、かな?』
『その言い方嫌だなあツナ……頼みますね、入江先輩』
『上手くやらなきゃ咬み殺すよ。絶対に』
失った人を、白蘭の脅威に侵された世界を、
――雛香君を、取り戻すためにも。
「……ああ。必ず」
呟いた入江の言葉は、誰にも届かず消えていった。