君を咬み殺す3 | ナノ




表裏
 無事ミルフィオーレのアジトに侵入、
 格納庫で遭遇したデンドロ・キラムをツナが撃破し、良い幸先を切っていたのだが――。


 ヴー、ヴー、ヴー……。

「!この警報……」
「敵に見つかったのか?!」
「ジンジャーの奴……予告通りに通報したというわけか……ぐっ」
「ムリしちゃダメだよラル、ジンジャーにやられた傷が……」

 突如現れた因縁の敵、ジンジャー・ブレッドの爆撃から間一髪で逃れたラルを、雛乃は心配そうにのぞき込んだ。
 だがラルはうっとうしげに舌打ちをしただけで、すぐさま立ち上がり決然と言い放つ。

「かまうな、雛乃……今は、すぐに警備システムを破壊に行くんだ!」
「おう!!」

 不快な警報が鳴り響く中、ツナ達はいっせいに走り出す。
 その1番後ろ、ラルの横へと並んだ雛乃は、腕をかばいつつ走る彼女へ、ちらりと目をやった。

「……なんだ、雛乃。今は、走ることに集中しろ」
「体の調子良くないんでしょ。休んだ方がいい」
「馬鹿言うな、この状況で何を言っている」

 前を走るツナ達に聞こえないよう、小声で会話を交わす2人の頭上、警告音は未だ甲高く鳴り響く。

「……ラル、自分をもっと大事にしなきゃ」
「余計なお世話だ」

 今にも鼻を鳴らしそうな様子で言うと、ラルは困り顔をする雛乃を横目で見た。

「……その無駄に勘のいいところとおせっかい加減……本当に、よく似ている」
「?」

 唐突なラル・ミルチの言葉に、雛乃はきょとんと首をかしげる。


「お前の兄だ。……あいつなら、良い門外顧問になっただろう」


 今、次期門外顧問のお前に言うのもなんだがな。
 そう呟き前へ向き直ったラルの横顔を見つめー雛乃は、ふっと微笑んだ。

「……違うよ、ラル。雛香は、良い門外顧問に"なっただろう"、じゃない」

 そっと、小さく囁かれた言葉は、警報に紛れかき消されていく。


 ――良い門外顧問に、"なる"んだ。


***




「――許可するよ、スパナ。基地の細かい3Dマップを、ダウンロードしよう」
「い、入江様!」

 部下の牽制を無視し、入江正一はスパナにボンゴレ迎撃の命を伝え、通信を切る。

「……いいんですか?トップランクとはいえ、スパナ氏はブラック……」
「今はブラックもホワイトも関係ない。ここまで侵入を許してしまったボンゴレを、完全に撃破しなくては」
「そうは言っても……」
「それに、僕も技術畑出身だからニオイでわかるんだ。彼は機械への純粋な熱意で務めてくれている、信頼できる男だよ」
 そう言い切り、入江はメガネをかけ直した。

 ――それに、この基地のマップなどくれてやっても、何も困りはしない。

 どうせ自分には、メローネ基地という大きな匣があるのだから。
 そこまで思考を巡らせると、入江は己の指に嵌まるマーレリングをじっと見つめた。
よみがえるのは、幾人ものボンゴレの影。


『あとは俺が死ぬだけ、かな?』
『その言い方嫌だなあツナ……頼みますね、入江先輩』
『上手くやらなきゃ咬み殺すよ。絶対に』

 失った人を、白蘭の脅威に侵された世界を、


 ――雛香君を、取り戻すためにも。



「……ああ。必ず」

 呟いた入江の言葉は、誰にも届かず消えていった。





- ナノ -