君を咬み殺す3 | ナノ




大人組の前日
「いよいよだな」
「……。」
「ヒバリ!明日は我ら年長組がいいとこ見せんとな!!」
「いやだ」

 がっちゃーん!

「落ち着いて笹川さん!」
「放せ!中坊ん時から成長せん男め!」
「僕の目的は、君たちと群れるところには無い」
「くっ!」
「残念だったねー笹川センパイ。雲雀さんはただ1人のことしか頭にないよ」
「……宮野雛乃」

 湯呑みから口を離し、雲雀はピクリと眉を動かした。


「まあ僕もですけどね!!!ていうか雛香のためじゃなきゃ死んでも雲雀さんとなんか手組んだりしませんし!絶対いやですし!!」
「……はあ」


 ここ数日、雛香につきっきりで修業をしているのがたいそう気に食わないらしい。
 子どものようにぷうっとふくれ、あーだこーだと並べ立てる雛乃の姿に、雲雀は動揺を覚えた自分がバカだった、とお茶をすすった。


***




「盛り上がってるな」
「やあ赤ん坊」

 ラルの参戦を巡りまたもひと悶着あったところへ、突如現れるは着流し姿の赤ん坊。
 見た目の幼さとは不釣り合いなその堂々っぷりに、しかし周囲の大人たちは慣れたものである。

「で、どーなんだ草壁?明日の突入作戦のシュミレーション結果ってのは出たのか?」
「はい。明日の作戦の成功率をハイパーコンピューターで試算したところ……」

「成功率、わずか0.0024%、だってさ」

 四捨五入したらゼロになっちゃうよ、
 言い淀んだ草壁の言葉を、雛乃がことさら茶目っ気たっぷりに言い放つ。

「雛乃」
「何ラル」
「茶化す場面じゃないだろう」
「シリアスを打ち消してるんだよ。雰囲気緩和、雰囲気緩和」
「お前の場合、ただの雰囲気クラッシャーだ」
「これはラル・ミルチ、雛乃さんの戦力も含め、高く見積もった数字です。他の要因による補正も考えられるが、どれもこちらに旗色の悪い物ばかりだ」

 馬鹿げた応酬を交わすラル達の前、きれいにスルーした草壁が説明する。
 だがリボーンは大して驚いた様子もなく、あっさり「ま、そんなもんだろうな」と切り捨てた。

「ふっ、奇跡でも起きなければ成功しない数字か……」
「ツナ達にはとても言えないねえ」
「今更ショックを与えても、他の選択肢は無いのだしな……」
「賛成です」

 雲雀以外の面々が、次々に暗い面持ちを見せる。


「ってより、無意味な数字だな」


「ん?」「「「!」」」
 にやり、笑ったリボーンが言い放つ。
 こてんと首をかしげた雛乃の横、他の大人組もみな一様に驚きの色を浮かべた。

「完成されたプロなら、戦闘力や可能性を数値化することに意味があるだろう。だがあいつらは伸び盛りだ」

 リボーンの言葉を聞くうちに、周囲の顔色が変わっていく。
 ただ1人、平然と湯呑みに口付ける雲雀を、雛乃はチラリと見やり密かに苦笑を漏らした。

「数値化できねーところに、あいつらの強さはあるからな」

 頼もしげに笑ったリボーンの声が、静まり返った和室に響いた。





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