富松 優しい君の嘘
※現代
「あれ、さくべー」
「…お前まであいつらみたいな呼び方すんなよ」
「さくべーさくべー」
「はぁ…なんだよ、今日は一人なんだな」
「うん、みんな用事あるみたい。さくべーこそ、あの二人は?」
「委員会。うちの委員会は今日ねぇみてーだから帰る」
気掛かりではあるがな…なんて呟くくらいなら待ってあげればいいのに、荷物の詰めおわった鞄を肩に掛けて帰る気満々な作兵衛くん。
「わたしと帰ってくれるの?」
「…こんな機会もそう無いだろ」
「いつも迷子コンビといるからねー。今日はわたしがさくべー独占できるんだ!どっか寄ろうよ」
「そうだな」
毎日のように神崎くんか次屋くんが居て、彼女のわたしと帰れる日は本当に少ないのだ。今日はすごくラッキーな日、
だから、学校帰りデートの大通みたいな事をいっぱいした。手も繋いだ、ゲーセンでプリクラも撮った、クレープ食べたし、沢山話した。
すごく楽しかった。
作兵衛は口は悪いけどすっごく優しい。だから、わたしがふらっと車道を渡ろうとしちゃった時なんか、馬鹿死にてぇのかって叫んでわたしの手を握ってくれた。
注目を浴びちゃって真っ赤になってたけど、わたしは嬉しかったな
「時間って早いね、もう終わりかー」
「また一緒に帰ってやるよ」
見慣れた下校の道だって、作兵衛が居るだけでまるで空を歩くみたいにふわふわ気分が浮いている。繋がれたままの左手が温かい。
自分の家が見えた時には、思わず力が入ってしまった。
「ありがと。でも無理しないでね、あんまり重くはなりたくないから」
「……」
「…作兵衛?」
歩みを止めた作兵衛と手をつないでいたから、わたしも立ち止まる。夕焼けが綺麗な空に映える彼は、真剣な面持ちでわたしを見つめた
「…俺がつるんでる奴らはさ」
「……」
「どいつもこいつも人の事あんま考えねぇで自分勝手で自覚してねぇ奴ばっかなんだよ」
「……」
「だからさ、皆困ったり…寂しかったりしたらでっけえ声で言うんだ」
「…うん」
「でも名前は、あんま言わねぇよな。そうすると俺は、名前がどう思ってんのかわかんねぇ。だから不安になって、考えだすと止まんねぇんだ」
「…」
眉根を寄せた作兵衛の手に力が入った。きゅっと縋るような手のひらから、何かを探ろうとするかのように握る、作兵衛の手
「だから、あんま我慢しねぇで寂しい時は寂しいって、言ってくれ。メールでも電話でも、忙しい時は忙しいって言うから」
「……やっぱり優しいね、作兵衛は」
「はぐらかすなよ」
「わかってる。ありがとう、…寂しかったら言う」
「……おう」
わたしはきっと作兵衛の優しさが欲しかったから、好きになったんだろうな。
その言葉だけで空っぽの家が怖いものではなくなったよ。
「作兵衛、ありがとう。」
「…大丈夫か?」
「うん、夜電話しちゃうかも」
「おう。待ってるな」
「…じゃあ、気をつけて」
「また明日な」
「…今日は、」
「ん?」
「わたしの為に時間空けてくれてありがとう」
「なっ……!お前なんで知って…」
「迷子達の委員会の先輩に、送り頼んでたよね」
「俺の精一杯の演技が…」
「ふふっわたし作兵衛にすっごい想われてるね」
「……当たり前だろ」
頬を染めて頭を掻く面倒見の良い作兵衛が、わたしは大好きなんだ。離された右手をまた捕まえて、触れるだけのキスをした