笹山 甘味酔い
※現代
「っ……」
あー…もう、授業中だっていうのに、兵太夫はああやって時々わたしの座る斜め後ろの方を振り向いて微笑みかけるから、わたしは不意打ちに耐えきれなくて俯いてしまう。
団蔵とか煩いから、とか言ってわたしたちが付き合っている事を黙っていようと言ったのは兵太夫の方だ。
でも四六時中素っ気ないわけではなく、メールや二人きりの時は嫉妬してるような態度(多分)をしてきたり、さっきみたいに意味深な目配せをしてきたり、皆の目を盗んでちょっとキスをしたり、机の下で手を繋いだりする。
わたしはそれはそれで、楽しいからまだ暫く今のままでいいかなーと思っている。
「腹へったー」
お昼休み、団蔵が間の抜けた声で購買から帰ってきたようだ。わたしたちは何時も自然と集まるメンバーで適当に座って食べる。今日は団蔵の隣が空いていたから座ったら、兵太夫がわたしの隣に座った。
「兵太夫、今日はお弁当?」
「そうだよ。名前はパン?三つも食べれるの?」
「うーん微妙だけどどれも美味しそうでつい…」
「食べきれないのに買うなよ」
「むー…」
正直、パン三つはちょっと買いすぎたかな…と思う。
それにどれも甘ったるそうなパンだ。思ってるより食べれなさそうに思えてきた
「…美味しい…美味しいんだけど…飽きてきた…甘い…」
「…あんまり甘いの強くないのに三つとも甘いパンなんだからな…後先考え無さすぎ」
「…兵太夫は食べ終わるの速すぎ」
「ほら、」
「あ、食べてくれるの?わーいありがとう!」
「……見るからに甘そうだったけどほんとに甘………」
「…兵太夫?どうし……」
パンを噛み締めて眉間に皺を寄らせた兵太夫が顔を上げた瞬間、はっとしたように固まった。一体なんなのかと視線の先を辿ったら、そこには唖然とこれまた固まる9人のお昼のメンバー。
ちなみに三治郎くんは一人にこやかだ
「あ……」
「い、今…」
「……ナチュラルに間接キスしたな…おまえら」
「え…えぇぇえぇー!!!??兵ちゃんと名前ちゃん何時の間に付き合ってっ…!」
「いや付き合ってない…付き合ってないから…!」
「今更だよ。今のは決定的だった」
「し、庄左ヱ門くん…」
彼の冷静な一言に、わたしは返す言葉が見付からなかった。
わたしも兵太夫も、すっかり此処が学校だということを忘れてしまっていたのだ。ついいつもの癖でわたしの食べきれない分を食べてもらってしまった。わたしと兵太夫が学校で演じていた“友達”はそんな事、しない
「な!何時からなんだよ?どっちが告った?兵ちゃんの事だからもう最後までやってんだろ?てか何で隠してたんだよ?」
「あー煩い煩い。お前がそうやって煩わしいだろうと思って黙ってたんだよ」
「ひでー!」
「そうか…名前ちゃんはもうすでに兵太夫の餌食に…」
「…なんか文句でもあんの、金吾」
飄々と皆の質問に答えていく兵太夫。皆の目が興味津々にわたしたちに向いていて、わたしはなんだか妙に恥ずかしくて俯いてしまった。
「……まあそろそろ悪い虫駆除にもうんざりしてたとこだからなぁ、良い機会だけど。名前」
「…っえ?わっ…兵」
「あっ…ああああー!!!!」
叫びたいのはわたしの方だ。
いきなり兵太夫は皆が見ているというのにキスをしてきた。叫んだ団蔵を煩わしそうに睨んでから、無駄に時間をかけて唇を離す。
「そういう事で、名前は僕のものだから。手を出したらただじゃおかないよ」
「うおー怖ぇー…」
それからというもの、兵太夫は学校内でも遠慮なくスキンシップをとってくるし、皆はなんかよそよそしいです。