川西 お団子時々あんみつ
「…僕は、嫌です」
「え…」
明日は待ちに待った休日。
わたしは嬉々と左近ちゃんを明日一日、町へデートに誘いに二年長屋まで来たのに、彼の答えはこれだった。
「…嫌、なの?」
「…はい」
まさかの、断り方だった。
予習がありますからとか、友人と遊ぶ予定がありますからとか、せめてそういう理由があったのなら仕方が無いけれど。これはあんまりだ。一緒に町へ行くのが嫌な相手だと言うのなら、何故付き合っているのか疑問を抱いてしまうほどに
「わかった…」
「……」
照れながらも了解してくれるものだと思って来た手前、衝撃が大きかったわたしは二年長屋を後にした
夜もすがら、こんなに落ち込んでいて一人部屋に籠もるのも気が引けたのでわたしはふらふらと学園の敷地内を歩いた。
無意識に人気の無いところに来た途端、わたしはしゃがみ込んだ。
「うー…左近ちゃんの馬鹿…」
ぽろり、落ちた涙は寂しく一粒ぼっちで土を濃く染めた。
無駄に持ち上がっていたのをずどんと落とされて、衝撃が強かった。嫌ですだなんて随分直球な言い方で、それも表情だって寄せられた眉が神妙な空気を産んでいた。
要するに、本当に嫌そうだったのだ。
これで傷つかない彼女が居るのか、
「居ないよ…わたしは傷ついたよ左近ちゃん…」
「……気付いてたんですか」
途中からつけられていたのには気付いていた。落とし穴二つくらい落ちてたよね。
かさり、木の裏から泥だらけ左近ちゃんは出てきた。いつもより固い表情で、しゃがみ込むわたしの前に数歩分距離を置いて立つ
「…泣いてたんですか」
「…だって左近、酷いよ、嫌ならなんで、付き合ってるの」
「…嫌なのは、先輩じゃありません。自分が、嫌なんです」
戸惑うように揺れた左近の瞳は地面に向けられている。
「…絶対雨降りますよ」
「相合傘すればいいじゃない」
「お団子は売り切れてて」
「あんみつを食べればいいのよ」
「先輩お団子が好きじゃないですか」
「いいわよ、それくらい」
「それに……」
「……」
「……僕と先輩なんて、どう見ても姉弟じゃないですか。僕は…嫌です」
「…そんな事」
「そんな事、なんかじゃない。」
「…わたしの持論としては部屋であんな事をしてるんだから外で姉弟なんて言われても関係な」
「貴女はどうしてそう恥じらいを知らないんですか!」
「だってね、左近。わたし左近に嫌われちゃったのかと思って怖かったんだよ。」
「……」
黙り込む左近。
そっと左近に手を伸ばしてみたら、外気に冷えた頬に触れた。
「嫌いになんて…なりませんよ」
「ふふっ、そうだよね、よく考えたら左近ちゃんわたしにでれでれだもんね」
「なっ…!と、兎に角外出はしませんから!」
「むー…外出は左近ちゃんがおっきくなってからだね」
「す、すぐに成長します!」
「ほんと?楽しみにしてるね」
わたしは左近ちゃんとならお家デートでも我慢できます。何年後かに左近ちゃんと、相合傘をして町でお団子を奢ってもらうのを楽しみにしてます。売り切れてたらあんみつでも食べます。
だから早く大きくなってね、