勝敗 伊空さんより
カチャリという音と共に、景色が一転して天井から逆さに吊される。それと同時に目の前に降り立ったのは、厭味ったらしく笑みを浮かべた悪魔。
「そんな初歩的な罠にかかるなんて、ほんとに鈍臭いよね名前」
「うるさい笹山」
「いい加減諦めれば?」
「誰がっ まだ終わってないでしょ」
持っていたクナイで縄を切り床に着地すれば、目の前の悪魔はクスリと笑う。何がおかしいんだと訴える前に、さっきとは違う浮遊感を味わいながら真っ暗になる視界に舌打ちをする。二重罠。奴があんな罠だけで満足する訳がない…わかっていたことなのに、まんまと引っ掛かってしまった自分が腹立たしい。
「本気で僕に勝てると思ってるの?」
「、勝つよ!」
上から覗き込んで笑う笹山はもう悪魔にしか見えない。最初に勝負を持ち掛けたのは、どちらからだったか覚えてないけど、奴の仕掛けたカラクリが原因だったのは確かだ。
「もうすぐ卒業だけど」
「明日は違うかも知れないじゃない」
「へぇ 」
笹山の仕掛けたカラクリなどの罠を躱し、一発入れれば私の勝ち。期日は卒業するまで、それまでに一発も入れられなければ笹山の勝ち。1年の頃から始まった勝負、私に分があるかのようだけれど、私は未だにこうして奴の罠に嵌まっている。認めたくは無いけど、いつも笹山は何枚も上手なのだ。
「毎日罠に掛かってる名前が僕に勝てるなんて到底思えないんだけど」
「何を言ってるの 私は日々成長してるんだからね!」
「馬鹿だね僕だって成長してるんだよ」
呆れた表情を浮かべて言われた言葉に、私が反論出来る訳もなく 黙って上に向けていた顔を戻した。別に悔しくてとかじゃない、首が痛いだけだし…
私がそのまま黙っていると、上から溜め息が聞こえたかと思ったら、小さな音を立てて何かが降ってきた。いきなり視界に入ってきたもんだから驚いたけど、それは縄梯子だった。
「いつまでそこにいるの」
「落としたのは誰ですか」
「名前が落ちたんでしょ」
早くしてよと急かされ上っていけば、地上に這い出た瞬間に腕を捕まれた。何するんだと言おうとしたのに、思ったよりも笹山の顔が近くて出かかった言葉は、音になることなく引っ込んだ
「ねぇ、約束 忘れてないよね」
「、や くそく?」
小さく呟かれた言葉に、私は穴の中に戻りたくなったが腕を捕まれているせいで、逃げることすら出来なかった。
あぁ、そうだこんな感じで、勝負が始まったんだ。当時はただ「笹山の使いっぱしり」になるんだと思ってた、今よく考えればそれは…
「忘れてたなんて言わせないから」
余裕の笑みを浮かべる笹山に、さっきと同じように勝負はついてないと反論することは出来なかった。
わかりきった勝敗
―勝負をしようよ
僕に勝てたら
何でも言うこと聞いてあげるよ
名前が負けたら
僕が死ぬまで僕の世話をしてよ
奴のカラクリから何とか抜け出した私に言い放った言葉。横暴過ぎると思ったけど、勝てると思った私はすぐに頷いた。
あの時、私の考えてる通りの意味で言ったのなら、1年だった笹山はかなりのマセガキだと思う。
だってそれ、「伴侶になってくれ」って言ってるようなものじゃない