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そこから200年わたしは眠っている、話に区切りがついたため紅茶を一口頂いた。何も言わないララヤ様をそっと覗き込んだら、綺麗な瞳に大粒の涙が光っていた。


「…ララヤ様」
「妾が、泣いても、どうにもならんというのに、」
「いいえ、ララヤ様。ありがとうございます」
「たくさんの命が…豊かな自然を育んだ星が…」
「確かに、イクサルを滅ぼしたのはファラムです。でもそれはララヤ様ではない。…わたしは過去のことで今を生きる人を決めつけたくはないと思っています」
「…うむ、妾はファラムとイクサル共に歩めると信じておる。おぬしもそう思っているなら決して無理なことではないはずなのじゃ」
「…ありがとうございます、ララヤ様」
「こちらこそありがとうなのじゃ…つらい記憶を語れという要望を飲んでくれて助かった。きっと妾は誰よりもきちんと向き合わなければならないのじゃから…」


世論では、イクサルフリートを政治に関わらせること、極論では生かしておくことすら疑問に思っているファラム人が存在する。そんな中、女王は人情に篤かった。ララヤ様は涙をハンカチで拭い、ご自分の紅茶を上品に啜った。先祖の過ちを聞かされるだけというのは辛いだろうに…わたしはこんな風に聞いてくれるだけでファラムとイクサルという確執なんて綺麗になくなってしまうように思えた。


「ところでナマエ、お主は音楽を嗜むのじゃな」
「…ええ、まあ」
「どんな楽器じゃ?」
「そうですね、クラヴィーアというのですが」
「…聞いたことが無いのお」
「うーん、鍵盤を指で押すと音が鳴る楽器です 結構大きくて 繊細な音を奏でられます」
「うむ…ピアノ、の類かの?王宮にも何台かある、今度聞かせてはくれまいか?」
「…ごめんなさい、わたし暫くは弾けそうにないのです…」
「そうなのか…」


心底残念そうに眉を下げるララヤ様には申し訳がなかったが、わたしは音を捧げる相手を亡くしてしまった。クラヴィーアがファラムに存在するかどうかもわからなかったから、もう奏でることもないととっくに諦めがついていた。筈なのに

繊細で美しいメロディーライン達が、颯爽と耳元を過ぎて行く気がした。

今はまだ、ファラムに捧げる気持ちを見つけることができない。弾かない理由がどうもこれ見よがしで、はっきり告げることもできなかったけれど。でもいつか、またクラヴィーアを奏でる時が来るのだと感じた。呼んでいる。きっと捧げるべきものが現れるのだと、わたしは妙な確信を持っていた。


「ララヤ様、お時間です」
「そうか、もうそんな時間か…」
「あっという間でしたね」
「まったくじゃ!また、お願いしてもよいかの?」
「もちろん、歓迎します。こんなわたしでよければいつでもお相手しますよ」
「ほんとうか!また使いをやるから是非来てくれ!」
「はい、」


女王は忙しい。そのなかでこんなふうにイクサルを気に掛けてもらえることはほんとうに嬉しい。わたしはミネルさんと共に謁見室に向かうララヤ様を見送って、自分のテリトリーである郊外の中央図書館へと帰路についた。用事は済んだのだからなるべくはやく、ここから離れたかった。


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