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星から離脱する

ソウルをもつ人間 凍結保存

イクサルフリート……



偉い人も、科学者や方陣学者のなりをした人達も、誰だかわからない人も、みんな泣いている。空は巨大すぎる紫の宇宙船に覆われたりして 部屋はどうも薄暗かった。さっきまで耳を裂かんばかりに響く絶叫と爆発音でどうにかなりそうだったけど、ここは殆ど外の音が聞こえないから ささやかな啜り泣きもしっかりと聞こえてしまった。


「…目覚める確率は」


なんと言ったか、ソウル、そう言った気がする。わたしは少し人より音楽を嗜むだけの女だけど なんだかそれがソウル という星の力を持つ事に繋がったらしい。政治というものにはめっきり疎いのだけど上層で秘密裏に進められている計画なんてものはいくらでも存在するらしい。
それで突然招集をかけられた人間というのが、ここに184人居るそうだ。その中で切れ長の目を持った綺麗な人が そのヴァルトホルンを思わせる滑らかな低音の声で代表して問うた。それは先程の短い説明の中で、ここに集められた人達が一番に気にしていた事だった。


「…確証は出来ない…しかし逆にここに残るということは…」
「…確実な死を意味する」
「そういうことだ」


誰もが震え上がっていた。
凍結保存のメンバーですら、四肢の凍る数時間後の自分を想像して腕を抱いていた。なんとも言えない空気の中、不意に大きすぎる爆発音が耳に届き、全員が冷や水を浴びせられたように飛び上がった。科学者は忙しなく機械を弄りだす。


「は、早くしろ!スティンガーウィングが破壊されたらそもそもの計画が無駄になる…!!」
「メンバーの皆さんはこちらから入ってください!!はやく!!貴方たちは私たちの希望なんですから!!」


ぞろぞろとスティンガーウィングと呼ばれた船に吸い込まれて行く。恐怖に慄き立ち上がれない人間も居るが他の人間が補佐してどうにか立ち上がらせている。 無理もない。
わたしはというと始めっから膝が立たなくて、とめどない涙すら自分でどうすることも出来ない木偶の坊に成り果てていた。理解が追いつかない、何もかもなくなってしまうのが一瞬すぎる。少し前の方で同じように泣き崩れていた人も他の人に連れてかれたから、きっとわたしも誰かに力尽くで引っ張られてカプセルに入れられるんだろう。そう思っていた。


「勝手に終わらせるな」


さっき聞いた、この声。
金管に響く低音だ。俯いていた顔を少しだけ上げると 涙でびっしょりと濡れた頬を暖かい指でぐいっと拭われた。


「イクサルは終わらない 我々が居る限り。そうだろう、立て。恐ろしい事など何もない」


それはわたしの、涙でいっぱいになったスポンジをぎゅっと絞るような、力強い言葉だった。なんて強い人なんだろう。目元が怖いけれど この人の言うことならばきっと本当なんだと思わせる。そして立ち上がろうかという引き金を握らせる、強い声。


「行くぞ」


差し出された手を握る。
さようなら 美しい星よ。わたしはあなたが好きでした。星が美しいから、わたしは音を奏でていたのです。全部イクサルの大地に感謝したかったからなのです。わたしを育んだ星、家族を育んだ星、皆の眠った星…
カプセルの中は怖ろしいくらい静かだった。それでもわたしは一人ではない、184人居る、さっきの人も一つ上の段にあるカプセルで同じように眠るのだから怖くなんて、怖くなんてない。わたしは走馬灯のように星の記憶を巡る。寒さの事なんて忘れるくらい暖かい星の記憶を。

またここで待ち合わせて、ただ待てばいい、惑星はなくても新しい朝がきっと、きっと、……



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