10

リュゲルと会った、話した…わたしは早急に王宮から出たかった理由をなくしたので自分のテリトリーに戻る前に、オズロックに会いに出向くことにした。

わたしはオズロックの気持ちがわからなくもないから、責める気にはならなかった。イクサルフリートは本当に結託が強い。その片鱗を自分も抱いているからだ。生まれた星の生き残りが12人しか居なかったら、特別で大切な人間となるのは当然だ。わたしたちは殆ど家族だ。あるいは家族より強い結びつきがあった。だから、あんな事をされている身でもその後警戒や嫌悪が全く湧かなかった。あれは手段だったのだ。


「オズロック、ナマエです」
「入れ」


厳格な雰囲気の装飾がいかにもオズロックらしい部屋だ。メインデスクの立派な椅子に収まる体躯はわたしと変わらないくらい華奢に見えるのに、存在感が比ではなかった。


「女王との会談か、どうだった」
「…わたし、ララヤ様なら…色々と大丈夫そうだなと思いました」
「…随分頭の足りない解答だな」
「素直な気持ちです、難しい事はわかりませんし」
「…お前たちは反りがあいそうだ」
「はい!ファラムとイクサルは…きっと大丈夫です」
「そうだといいが…まあ、お前の案ずるところは無い」


ほら、彼は復讐を背負わなければ優しい人間なのだからきっと大丈夫。嫌味を頭につけないと優しくなれない病気なだけなのだ。
わたしは備え付けのふっかふかなソファに座って、少しだけ休んでから帰ろうと思った。やっぱりイクサルフリートの人と一緒に居ると落ち着くのだ。そう、たまにあの舌の感触がフラッシュバックするくらいで…


「…あのファラムの白い餓鬼とはどうなった」
「え!」
「…何をそんなに驚いている」


まさかこのタイミングでその話題をふっかけてくるとは…ちょっとオズロックの口許を見つめすぎたかもしれない。彼の思考回路は恐ろしく速く、少しの所作もあらゆる話題に繋げてくる。それがなくても、わたしの事をオズロックはよくよく知っていた。そう、わたしが王宮から出る時間とリュゲルが玄関口に居た時間が一致したのは、多分オズロックの仕業なのだろう。


「私は今でも反対だ。だが、ファラムとの関係は落ち着きつつある…それに恋情というものは第三者がどうこうできるものではない」
「…」
「私もあそこまでしておきながら表を返すのは少々不本意なのだがな」
「あれはびっくりしました…効きましたけどね」
「…お前の本音はどうなのだ」
「……」


本音、本音か。
本音の入った箱を開けるには、色んなことをしすぎた。それにまだ一番後ろめたくて苦い…GCG決勝戦のあの日のことを紐解いていない。


「本音は…見えてはいるんです、ただ受け止めていいのか…わからなくて」
「いいか、お前の本音など実に矮小なものだ。それを隠したところでどうなる」
「でも…オズロックは…オズロックの本音は、どうなんですか」
「……」


軽い反抗心のつもりだった、矮小だなんて言われたから。軽くあしらってまともに対応なんてしてくれないだろうと思って投げかけた言葉だった。
しかしオズロックはわたしの言葉を聞いて、その瞳を真っ直ぐに向けながら椅子から立ち上がった。溜めるようにゆっくりと、そして舐めるように靴底を操りわたしの目の前まで来た。わたしはソファに座っていて、身動き一つ取れずに見上げるだけだった。


「…それを聞いてどうする」
「…っ」
「予想が全く出来ていないわけでもないだろう、その使えない脳みそだとしても」
「…ごめん、なさい」
「ここでまた、あの日のようにお前の唇を奪ったところでお前の気持ちが変わるわけではない」
「……」
「…お前たちの為に立ち回れる程度のものだ、」


わたしは大切なものを、一つの可能性を塗り潰そうとしているのか。あれは手段だったのでは、ないのか。ライムグリーンは闇夜によく映えるのだろうか。わたしは何も知らないまま、背を向ける。優しさに何もできないまま。


「お前が気にすることもない。こうやって立ち回ってやっているのだから、それが無意味にならないようにするのがお前の勤めだと思え」
「…で、でも」
「…それでも、気が変わったなら」


細い指だ、自らの輪郭に添える癖があるのをわたしは知っている。それを今日はわたしの頬に滑らせた。その瞳にわたしはどう映っているのだろう。


「いつでも奪い返してやるから、言うといい」


返答に困っていると、図ったようにイシガシが会議の時間を告げに来た。わたしは促されるまま、テリトリーへ帰ることになった。


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