一粒の愛の色

※非道徳的、捏造、含性描写


遮光カーテンでも防ぎきれない太陽の光、部屋の中が淡く明るいお陰でわたしは何だって見える。そう、何だって。


まだ抑えられる。首筋の柔いところを食む、鎖骨の筋を沿う、戯れの範疇の愛撫が色を変えなければ。
どうしても比べてしまうのは、致し方無いのだと思う。一つ一つになんの違和感も感じない事に違和感を感じているわたしは、この人の物ではないのだから。
例えば髪の色が、声が、顔が同じでも、肌触り、言葉、表情は毛程も似ないのだから違和感も混乱も許されるべきなのだ。そうやって混乱に乗じて、わたしは自分の罪に免罪符を掲げようと躍起になっていた。



「何を考えてるの?」

「っ、べつに」

「藍とはいつもどうしてるの?すっごく気になるんだけど」



当然といえば当然だけど、わたしが藍ちゃんの事を考えているって愛音には筒抜けだった。いつも藍ちゃんに、真っ暗な中で組み敷かれるのとおんなじベッドの上で愛音に襲われているのだから。
意地の悪そうな笑みにサッと身体が冷えた気がしたけれど、直ぐに胸元を弄る掌に熱を呼び戻された。いよいよわたしは、堪え難いものに絆されてしまうのだろうか。



「ふっ…う…」

「ねえ、欲とか無いでしょう?君が何を欲しがってるのか、藍にはわかるの?」

「…や、あ」

「すごく気になる、今度三人でしてみる?」

「嫌…だ、嫌」

「嫌なの?残念」



胸の頂きも、柔肉も掌で擦り合わすように撫でたり態とらしく揉んだりぎゅっと摘まんでみたり、わたしの息は上がりはしたない声も漏れてしまう。
特に浮かされる気配のない所だけは藍ちゃんを彷彿とさせるだなんて、貴方が一番の罪人なんじゃないの。


どうしてこうなったのか、未だに理解が及ばない。世間体だとか倫理とかが胸につかえていても、わたしと藍ちゃんは愛し合っていてそれの延長線上としてまぐわっても居た。それなのにわたしの上に乗るのは、血肉の通うオリジナルだ。おかしい。
それも合意の上だ、わたしではない、藍ちゃんと愛音の間で。覚えてはいる。藍ちゃんが生命を育てたいと、わたしと育てたいと語った事。それは出来ないんだって、涙で返した事。その涙を拭って、可能だよと答えた藍ちゃんの後ろのドアから部屋に入ってきたのが愛音で、二人はわたしに聞こえないように少し言葉を交わした。それから藍ちゃんが触れるだけのキスをわたしに灯して、どうしてか部屋から出てしまったのだ。残ったのはわたしと愛音。それからよくわからないまま、今に至ってしまったのだ。



「…ふふ、可愛いね」

「ヒッ…う…」

「人間にはさ、犯された事無いでしょ?」

「っ…!」

「じゃあ、処女って事だよね」



目の前のすましたその、藍ちゃんとおんなじ顔を殴ってやろうと思った。でも弾かれたように力を入れた腕は僅差で負けてしまった。わたしの腕力などたかがしれているが、暫く人間を捨てていた身にはもしかしたら勝てるかと僅かな希望を持っていたのに、敗れてしまった。予め捉えられていたのだから、起爆スイッチを押すとわかっていて言ったのだろう。無機質よりもずっとずっと厄介な 人間だ。

暫く瞳の中を覗き合う。綺麗過ぎないのが、いちいち癇に障る。



「藍が望んだんだよ?わかってる?僕がしたくて犯す訳じゃないの」

「…最低」

「でも君の事、すごく気になってたから優しくしてあげるよ」



藍ちゃんよりよく理解しているような手つきでショーツをなぞられると嫌でも身体に力が入って、貴方の指に翻弄されていますと伝えてしまう。豆に擦ると思考が塗りつぶされて、キャパシティの小さい馬鹿な人間みたいに愛音の指の動きの事だけしか考えられない。



「やめて…愛音じゃなっ…あ、藍、藍ちゃ」

「そういうこと言う?僕、今すぐ挿れる事もできるんだよ?ねえ、君はもう少し理解した方がいいよ」

「や、ああっ…!はっ…」



気付くとショーツは脱がされていて、無防備なそこに不快をぶつけるように、指を何本も入れられた。何本かわからない、兎に角動いている。わたしの思考はぶつかり合って散り散りになり、足がガタガタ震えているのがわかった。膣も、脳もびっくりしてる。それで受容するしか出来なくなっていた。



「ねえ、びっしょびしょだよ?濡れすぎ」

「ひゃあッ!あっ!んんっ…んっ」

「これじゃダメじゃない。僕怒ってたのに、君が濡れるの早すぎて脅せなくなっちゃった」



痺れが強すぎる快感がピタリと止んで、指は一気に抜かれた。わたしの膣はそれでもうねりが止まずに、物欲しさで切なくなってしまう。
声にならないように、微かに息をつく。視界でガチャガチャと愛音のベルトが外され真っ白い太腿が見えた。わたしより白くて、目を背ける。藍ちゃんを初めて見たときも、人と思えなかった。それは正しかったのだけど、間違ってもいた。愛音が存在しているから。



「……」

「……」



あっという間に、硬いものが充てがわれる。わたしの心臓が跳ねるのと同じように、膣も蠢いてしまった。迎え入れると語るような動きをしてしまい、一人で焦ってしまう。愛音は今までの饒舌さの鳴りを潜め、黙って挿入をしようとしていた。



「や、めて、愛音っ」

「黙って」

「っ…う」

「…あ」



しかし、滑りに負けて中々入らない。
そんな事は今まで経験した事が無い。勿論、普段藍ちゃんは的確に刺してくるからだ。
滑りすぎて豆を潰し、わたしはびくびく腰を揺らしてしまうのだけど…どうも焦らすにしては、愛音の方が焦った動きをしているのだ。それは、



「愛っ…音…って、は、初めて」

「う、うるさい」

「ひやっ…あああっ…!!」

「んっ、は…いった」



愛音のものが奥へ進むと、自然と内壁が押されて今までと違う感覚に責め立てられる。わたしは一度大きく目を見開き、背を仰け反らせてしまった。優しかったシーツさえ、身体中に湧いた汗で居心地の悪い触覚を植え付けて皺を寄せる。



「うっ、ん あ、」

「はあっ…柔らかくて 熱い」



熱い。

わたしの顔の横に突き立てられた白い腕も、筋を立ててシーツを握りしめている。盗み見た眉は深く寄せられて、額に汗が滲んで見えた。愛音がふと、伏せられていた瞳を起こしてわたしを見た。そして辛そうな表情に意地の悪そうな笑みを浮かべるのだ。今のは、ズルすぎる。



「んっ」

「っ…締まった、ね?」



わたしにとっても、初めてなのかもしれないとその時思った。さっきは否定したけれど、生きている人間とまぐわうというのはこういう事なのだと。明らかに違った。汗の香りも、奪われずに相乗する温度も、ひとつひとつに気が付く度に力が入って締め付けてしまうのだ。わたしの意識に誘う意図など無くても。



「きっ…ついから、あっ…ダメだっ」

「やっ!、ああっ、ん!ん!はっ…」



まだ全部入りきっていなかったのに、激しい前後運動が始まった。いきなり穿つようにがっつかれて、余裕が無い。愛音に。

殆ど愛音のペースで揺さぶられてわたしはほんとうにはしたなく喘ぎ、下を締め付けてばかりだ。

不意に、崩れ落ちるようにわたしの肩口に顔をうずめてくる。彼の短く忙しい呼吸の合間、高めの可愛らしい喘ぎが聞こえると何かがこみ上げてくる。不本意ながら犯されているのだと、頭ではわかっているのに…



「っ…うぁ、好きっ…名前、すきっ」

「はっ…んんっ、あ!なん、なに、あいね、あっ!」

「んっ、はっ、」

「いま、なん、てっ…っあ!はあ…あい、ね」



理解が出来ないなんて、最初っからだった。それでもわたしは今までの事も、一瞬藍ちゃんの事も、ここがどこだって事も、何もかも頭の中から無くなった気がした。

それって、あんまりじゃないか。

てっきりその気など無いのに抱いてるのかと思っていた。実際そう言っていたのに、愛音が、わたしのことを…?その上で書面上だけ孕ませる役回りを受けた?藍ちゃんはこの事を知っていた?だめだ、どうしても、愛音の気持ちが わたしを埋め尽くして



「っ、泣くほど、きもちい?」

「っ…っく…ぁ、ばか…ば、か」



貴方が眠りについた理由なら、私だって知ってるんだから。敏感な触覚を備えた優しい心を持っている貴方なら、わかってるくせに。

最後に出る、と囁いて 愛音はわたしの一番奥に吐き出した。私の頬に落ちたのは、汗ではないのだろう。



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