愛と骨の間
紅茶の香しい湯気の舞、アッサムの夢を映す。
この世界は天国のように綺麗なのに、どうしてこんなに生きにくいのか。時を忙しく区切らされて、わたしたちは毎日一つずつ炎を着ける。残りの蝋燭の数を知らされないまま、ただ燃やし続ける。
どうして、世界の美しさだけ受け取って生きていきたいのに。
「我儘」
「なんで、」
「てめぇ、そりゃお前が言う"世界が美しい"のは、いつ消えるかわからないからだろ」
「…そうなのかな」
「俺はそう思ってる」
紅茶も珈琲も飲めれば一緒だなんて、蘭丸はわたしが折角茶葉から淹れた紅茶を一気に飲んでしまった。
そうやって、わたしの気持ちも飲み込んでしまうのかなあ。それが幸せだと喜べばいいのか、儚いと嘆くべきなのかがわからなかった。
「わたしの気持ちも、蘭丸の気持ちも、消えちゃうの?」
「いつか死ぬからな」
「そりゃあ、そうだけど」
死んでも消えても気持ちだけは、こう、永遠に一緒に居たい。
わたしも基本はリアリストで、無謀な夢を見ない蘭丸に居心地の良さを感じていた筈なのに、こんなんじゃ蘭丸に呆れられてしまう。わたしは切なさに蓋をして、水の奥に沈めようとした。
「まあ、確かにね。変わらない物なんてこの世に無いから、無いからね。」
「……」
蘭丸もわたしも、そう長くない今までの時間の中で沢山の変わるものを見てきた。信じることの意味の無さを心に刻んでしまっている。
それなのに、それなのにわたしは蘭丸に永遠を望もうとしている。わたしが一番嫌いな、永遠を望みたいと思ってしまった。これでは煙たがれるだけだ。そう、わたしは今から要らないものを水の奥に沈めようとしているのだから、
「…確かに、消えねえものも変わらねえものもねえ」
切なさを詰めた箱を手放す瞬間、引き止めるように手を握られた気がした。
「…けどな、今、俺がどう思って、お前がどう思ったのか。それは俺が死のうがお前死のうが世界が消えようが、変わらねえ事だろ。」
乱暴に顎を掴まれて、蘭丸の方を向かされる。少しだけ紅茶が零れた。
「俺は生まれ変わるなんて考え信じちゃいねえから、永遠なんて比喩じゃねえと使えねえけど、」
ゆっくり、ゆっくりと近づく。
オッドアイのどちらにも、同じようにわたしが写っていた。
「墓までなら、誓ってやる」
唇の先が触れてから端に至るまで至極ゆっくりと触れ合うキスなんて、二人の柄じゃなかった。
でもこのキスを大切にしたかった。蘭丸も、おんなじ様に思ってくれているのかな。
「…充分」
過去は、嘘で塗り固めない限り事実として残る。わたしと蘭丸の胸の中、土の下に入ったとしても。それは永遠に。