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振り向いた彼の瞳、澄んだ青



「――…!」

「…ナマエ。熱はもういいの?」

「え、なんで」

「なんででしょう」



おどけた風な彼はリフティングを続けている。とんとん、ざざんざざん
耳に入る音が全部優しくて、今日は風も柔らかい。すっと澄んで冷えた空気に、太陽の光が真っ直ぐ降り注いで明度が高い。眩しい朝日の明るさが、色を鮮やかにして世界が美しい。海の薫りが愛しい。



「――はわたしを知っていて、わたしは――を知らないだなんて不公平じゃない?」

「じきにわかるさ。それに、謎が多い方が君の気を惹ける」



ふわりと軽くなる綺麗な笑顔を浮かべて彼はリフティングをやめた。一度とん、と高く上げられたボールがすとんと手のひらの上に落ちる。目線をわたしから外さずに、だ。ふっと感嘆の溜め息が漏れる。ただその綺麗な瞳を通して彼の脳にわたしが映ることがこそばゆい。



「でもまさかナマエがこんなに早く来てくれるとは思わなかったよ、会えて良かった」

「え、うん」

「おーい――ー!」



突然彼を呼ぶ声がしてそちらを見たら誰かが大きく手を振っていた。すぐ行く!と叫び返した彼はわたしの目をみて、今度は自信に満ちた笑み。またわたしの心臓は煩くなる。どくどく



「オレ、今日は行かなくちゃ。大事な用事があるんだ。だからまた月曜日に会おう。病み上がりなんだから、まだ寝てなくちゃいけないだろ?」

「ありがとう…」

「オレの方こそありがとう、こんな早く会いにきてくれて。君が来るのが少し遅かったら…いや、なんでもない。兎に角ありがとう、」



挨拶に頬へひとつキス。彼は名残惜しそうに振り返りながら、彼を呼んだ友人の方に走って行ってしまった。

――が見えなくなるまで手を振って、完全に見えなくなると肩と一緒に全身から一気に力が抜けた。今まで忘れていたわたしに思い出させるように、背中にぶわっと風を感じて海を振り返った。綺麗な青。



「あ…!」



わたしの手にはまだ彼の上着が握られたままだった。
彼の上着をぎゅっと握り、じっと見つめるわたしにまた潮風が吹いた。"忘れないで"だなんて、寂しがりな海ね


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