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帰路は何時だって居心地が悪かった。
夢から覚めたような、まだ夢を見ていたかった気持ちがうずめく。悪行はいつも父に隠せても星に隠す事は出来ない。瞬きはわたしを責めているようで、マークの部屋の窓から見るよりずっと眩しく感じた。
「ただいま」
「…おまえ、今までどこに行ってたんだ」
家のドアを開けてリビングに入ると、どっかりとソファーに座る父が威厳のある口調でわたしを睨んだ。いつもはこの曜日、この時間には居ないのに、面倒な事になった。
「友達と遊んで」
「嘘をつくな。同じ学部のサッカーアメリカ代表選手、マーク・クルーガー」
「…」
父の手には仕事用の携帯が握られていて、わたしは直感でつけられたなと悟った。父はなんだってできる、きっといろいろと調べ尽くされているだろう。もう隠し通せない。
母がキッチンの陰から心配そうに見ていた。
「…おまえは、懲りないな。14の時の事を忘れたのか」
「っ、忘れなんかしないわ」
「それでもサッカー選手か。転校、引っ越し、」
「…まだそんな事言ってるの。執着しすぎもいいとこだわ。わたしは…もうパパに振り回されたくない」
「…」
「サッカー選手だからなんなの?貴方の過去をわたしに押し付けないで。もうこれ以上…わたしの人生めちゃくちゃにしないで!」
自然と感極まって語尾が強くなる。これ以上醜態を晒したくなくて、わたしは自室に駆け込んだ。
転校?引っ越し?
わたしがサッカー選手と仲良くなったから?付き合ったから?もううんざり。過去に何があったのかなんて知らないけど、わたしにそれを押し付けて、あまつさえ人生までめちゃくちゃにさせられるなんて。この年になってこんなに親に振り回されてる自分が惨めで、惨めで、
「っ、フィディオ…」
拙い唇で涙をすくいとってほしかった。