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星、そう、星。
彼女は星をまるで愛しい人でも見るように眺めた。その眼差しに吸い付かれるようにオレは彼女を抱いたが、瞳の向こうにはオレではない誰かが居た。何度抱いてもその誰かは消えなくて、掻き消すように乱暴に扱ったこともあったが、彼女は変わらぬ様子でまたオレの部屋から見える星を眺めた。
「おまえは、」
「…ん?」
「…なんでもない」
「…そう?」
愛を囁いた事はない。
オレは今まで恋に敗れた事が無い未熟者だから、彼女に教わる事は多い。さよならを告げられる恐ろしさを感じて、愛を告げられないだなんてディランが聞いたら何て言うだろう。彼は一直線な奴だから、こんな歪曲した感情を理解しないかもしれない。
ディランならきっと、それでも真っ直ぐに想いを告げて潔く諦めて、清い関係のまま、また新しい恋を探すのだろう。
しかしオレ達はもう戻せないところまできているし、どうやってもそんな風に彼女を捕らえられない道など考えられない。
「わたし、そろそろ帰らなくちゃ」
「…そうだな」
軽くキスを一つ交わして、彼女は散らばった衣服を纏い呆気なく帰っていった。父親が厳しい人だからと、彼女は必ず8時には帰ってしまう。
オレが彼女について知っている事なんて、同じ大学の同じ学部で政治家の娘、厳しい父親で一人っ子である事くらい。彼女は過去を語らない。
星は、一体どれくらい彼女を知っているのだろうか。
そうしてオレは夜空の星を睨み上げるのだ。