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忘れられない人が居る。



この地球にある果ての無い青空も、肌を撫ぜる爽やかな風も、生き生きと色付く自然も全てがいとおしくて、それに溶け込んで彼に纏う空気になってしまいたいだとか。

夕暮れの列車から見える街灯りにある幸せを慈しんだりとか。

見ず知らずの同車客や世界中に生きる人全てを愛でられずに寿命になってしまうだろう事が悔しい、だとか。


そんな気持ちにさせる、うつくしい恋があった。




どんなにアバンチュールでカラフルな恋を重ねても、それは減法混色のように暗い夜空になって一際、あの煌めく彼の流星が瞬く。
もう8年も経っているのに、14の時の数ヶ月だけの恋が忘れられないだなんて。それよりずっと長く、身体を捧げた人だって何人も居るのに、いくらでも情熱的なキスを交わしたというのに。


あの時一度だけ交わした舌すら使わない稚拙なキスが忘れられない、だなんて




わたしにとってフィディオ・アルデナは全てであり、束縛の鎖だった。

わたしを抱いた男の腕の中で、"穢れた"わたしは何時もそんなことを思う最低な女だ。でもそう思わせるのはフィディオ・アルデナだ、なんて心の中でまだ14のヴィジョンである彼にもそっと罪を被せる。またわたしは、悪事を重ねたような罪悪感と高揚感に溺れる。



「星が綺麗だ」



アメリカの明るい街灯にすら臆せず輝く星が一つだけ、濃紺の夜空に煌めいていた。
また一つ、塗り重ねられたアバンチュールな恋の中でもこの彼の腕の中は一層居心地が良かった。だからこんなにだらだらと身体だけの関係を続けている。



「そうね、マーク」



柔らかなエメラルドの瞳は澄んでいて、濁ったわたしを映し出す。


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