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あれから数ヶ月。わたしはいつまでも見ていたい美しい宝石を易く見つめる事が出来るようになった。学校、いや世界で今や有名人な彼はいつも取り巻きに囲まれているが、此処では違った。さわさわと流れる風にまで色が付いたようなこの浜辺に彼は居て、リフティングをしたり海を眺めてたりする。そして他愛ない話とか、お互いの事まで気付いたら女友達にすら言っていない家庭の事とかまで。まるでその瞳がブルーホールのようにするすると引き出してしまう。美しい魔法の瞳。
練習が忙しいようで、いつも一時間程度しか話せないけれど、週に何度かだけれど、わたしには十分だった。



「明日も試合なんだ。予選第三試合、」

「――が活躍してるとこ、見たいなあ、」

「でもナマエ、君のお父さんが黙ってないだろ?」

「一度くらい大丈夫よ、お友達と遊ぶって言えば。」

「じゃあ、これ。見て、一番良い席だよ」



すっと上着のポケットから彼が出したのは明日の予選の観戦チケットだった。わたしは高鳴る心臓の音を感じた。



「え、いいの?だってFFIのチケットはとても高くて手が出せないって友達が…」

「選手には家族や大切な人の為に特別な席が用意されるんだ。だから何も心配しないで、受け取って」

「大切な、人?」

「そう、」



彼の口元は微笑んで居るけれど、瞳は全く歪み無くキッとわたしを見つめていた。サファイアの瞳。さあっと少しだけ冷えた風が二人の間を抜けて、彼の髪が揺れる。すっと優しく持ち上げられたわたしの手に、チケットが握らされた。



「あ、りがとう」

「いいえ」



妙な空気はふっと緩み、何時もの他愛ない話をしている時の雰囲気に戻った。彼も、わたしがチケットを受け取った事で満足したのかわたしから視線を外した。わたしも何時からか止めていた呼吸を再開した。



「さて、追い込み練習が始まる時間だ」

「う、ん…応援してる。明日必ず行くね」

「うん、ありがとう」



また綺麗に笑って、彼は立ち上がった。ぱんぱんとズボンについた砂を払い、またねと手を振った。
にこにこと笑みを絶やさない彼、立ち上がったのに一向に歩きださないので思わず首を傾げたら、すっと顔が近づく、首の後ろに彼の手が回る。
突然の事でぎゅっと目を瞑るが、何も無い。不思議に思ったところで急に声が聞こえた。吐息まで感じる程近くで。



「無理はさせたくなかったからオレから誘わなかったけど、君のために空けておいた"大切な人"席、明日やっと埋まるみたいで嬉しいよ、人魚姫」



はっとして目を開けたわたしの視界には、数枚のチケット。全て同じ座席番号、でも全て違ったデザイン。よく見るとそれは、



「――…!」



今までの予選試合や練習試合のものだった。


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