貪欲な唇
※3ネタバレ
「お疲れさま」
「うん!」
ちゅ、かるくおしあてられた唇は熱い。練習後だからだろう。頬に感じた熱はすっと引いていった。熱の発信源はとたとたと走っていって、向こうでPCをしていたナツミにも同じように頬にキスをした。
いつもそうだ。でも慣れはしない。ロココがわたしのもとにきてふわっと浮き上がった気持ちは、次の瞬間に必ず地に落ちるのだ。
いつか、何かの手違いとか…二人がお付き合いしたとかで、ナツミとロココが唇にキスをしてしまったらどうしようなんて、いつも一人でひやひやしている
「ねー!名前ー!」
「なにー?」
「今日一緒帰ろうよ!」
「いいよー」
家の方向が同じだから、たまに一緒に帰る。内心踊りあがっているのを必死で隠して帰り支度をした。わたしを待っているあいだ、彼はナツミと話していた。わたしの浮いた気持ちはまた地に落ちた。
「なんか元気ない?」
「そんなことないよ」
いつもは弾む会話も今日はこれだけ。とぼとぼと帰路を無言で歩いてたら、あっと言う間に別れ道になってしまった。
「なんかあるなら相談してね」
「なんもないよ」
「そう?」
嘘ばっかり、くすくすと笑っているロココはすっとわたしの頬に手を当てた。親指がさわさわと頬を撫でる。どきどき、心臓の音が煩い。ロココの顔が近づく
唇は、わたしの唇のすぐ、すぐ横を掠めた
「はい、また明日」
まだくすくすと笑っているロココ。わざと、わざとだ。わたしがどうしようもなく欲しくなるのがわかってて、わたしに言わせたくて、また明日だなんて言って
「ばか」
「うん」
「ばーか」
「うんうん、それで?」
「…っ」
ロココの唇は熱かった
恋人のキスをして