きみの落とした星
※3ネタバレ









「良い試合だったよ!マモルのガードはやっぱり凄かった!」



良い試合だった?よく言えたものだ。彼は嘘が旨いからみんな気付きやしないけど、わたしにはわかる。

彼の心の中にどろどろと黒いものが埋めいているのが。


彼はいつも一番になれなかった。周りはみんな、特に大介や夏美は口を開けばエンドウエンドウマモルエンドウマモルそればっかり。それだけでうんざりしていたというのに、FFIでもGKとしても彼はエンドウマモルに負けた。それが悔しくないわけが無いのだ。「流石ワシの弟子だ」と言って撫でられる筈だった彼の頭は少しも乱れずに虚しいままだ。
彼がエンドウマモルに勝っているところなんか身長くらいだが、そんな先天性なところを褒めても彼には何にも意味をなさない。彼自身勝ち取るものでなきゃ意味が無いのだ。


そこまでわかっていて、わたしは一体何をしたいのか。



「どうしたの?こんな時間に」

「取り敢えずお邪魔するわ」



こんな、夜中。コトアール宿舎はしんと静まりかえっていた。ずかずかと慣れたようにロココの部屋にお邪魔して、どっかりと彼のベッドに座った。彼はベッドを背に床に座っている。



「ねえ、ロココ」

「なに?」

「あなた、今心の中どろどろでしょう」



ぴくり、肩が上下したのをわたしは見逃さなかった。彼は取り繕ったような不自然な笑みを浮かべて、ゆっくりベッドに座るわたしを振り返った。



「まさか、何を根拠に」

「結局あなたはエンドウマモルに勝てなかったわね」

「……」

「大介の中でも、夏美の中でも、」

「……」

「能力でも、」

「やめて、やめてよっ!」



だんだんと表情が陰り、険しくなり、最終的には見たこともないような悲壮な顔をしてわたしを押し倒した。わたしの肩を掴む褐色の大きな手のひらががさがさなのを服の上からでも感じて、わたしはずきりと心が痛む。



「…悔しくないわけが無いのよ」

「…」

「あの泣き虫ロココが、」

「…」

「やせ我慢なんかして、」

「…」

「欲しかったものを持っていかれて、悔しくないわけが無いの」



わたしがそこまで言って、彼はふるふると震えながらわたしの肩口に顔を埋めた。ぎしぎしと、布団を握るロココの手が痛々しくてわたしも少し泣いた



一通り彼の嗚咽も治まりだした頃、顔を上げないままぼそぼそとロココは呟きはじめた



「…結局、一番にはなれなかった」

「…」

「GKとしてだって、負けた。いろんな人がいっぱい、知らない人も、有名な人も、師匠も、みんな、みんながマモルのもとに惹き付けられる」

「…」

「僕には、なにも」

「ふふ、そうね、沢山の人がエンドウマモルに惹かれて、殆どの一番を取られた。それは事実だわ」

「…」

「でも全部じゃない、全部じゃないわ」



わたしは今までぴくりとも動かさなかった自分の腕をゆっくりとロココの首に回して、がむしゃらに力だけでぎゅうっと掻き抱いた。わしゃわしゃと髪を乱して、出来るだけぐしゃぐしゃに、乱して




「…わたしが、居るわ。リトルギガントのみんなだって」

「…リトルギガントは、イナズマジャパンに引き抜かれるかも、しれない」

「わたしは引き抜けない。わたしは引き抜けないわ」

「……うん、そうだね」



もぞもぞと、ロココはわたしの背に腕を回した。首もとにぬるい息がかかって、わたしは少しだけ身震いをする。彼の肌はあたたかい



「…ねえ、ロココ。わたしロココがエンドウマモルに勝っているところ、一つ知ってるよ」

「なに?」

「知りたい?」

「…うん」



わたしはロココの顔を両手で柔らかく押さえて、顔を上げさせた。
髪の毛も表情もぼんやりとぼやける彼にきらりと星を一つあげよう



「きっとエンドウマモルは童貞よ」
「っはは、それは、そうかも」



ゆるゆると柔らかい笑みを浮かべたロココと、ゆっくりと唇を重ねた。



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