瞬きの漏情
一瞬、一瞬の出来事だった。
誰一人として私たちを視界に入れていない一瞬。ガゼルの服の端すら、誰の目にも写ってない一瞬。
その一瞬に、掠めとられたわたしの唇。一度だけ目が合ってすぐに逸らされた
「が、ガゼル」
「ガゼル様!」
「なんだアイキュー」
確かにわたしたちは愛を語り合う仲だが、ガゼルは公私を混合しない。二人きりでもあまり甘い空気にならないというのに、今ダイアモンドダストの練習中に目を盗んでキスだなんて、キス、だなんて
アイキューと事務的な会話が終わったらしいガゼルはまたグラウンドで練習を続けるチームメンバーを見渡す。アイキューは練習に戻っていった
なんとなく気まずい空気が流れる。もっとも、気まずいと感じるのはわたしだけかもしれない
「名前」
「は、はいっ!」
俯いていた顔を上げると思っていたよりずっと近いガゼルの顔、くすんだ水色の瞳。薄い唇がまた、薄い熱をわたしの唇に灯す。お互いに目を閉じないまま、また一瞬の口付け。
すーっと離れていった唇を目で追うと、ガゼルも同じようにわたしの唇を見つめているのに気付いた
「…ガゼル」
「あまり…」
「…?」
「わたし以外を見るな」
それはそれは彼らしくもない、公私を混合した発言だったがガゼルの切願通りに、わたしはもう貴方しか眼中にありません。
内緒でキスをして