醒めないで
拭えない気まずさはわたし達を静かに蝕んで、月曜日を重ったるい空気にした。
目も、合わなかったな。
色々考えてたらあっという間に放課後になって、教室には誰も居なくなった。
窓からは広いグラウンドでサッカー部が部活をしているのが見える。やっぱりサッカーをしてる倉間は、気まずい教室に閉じ込められている時と違って生き生きしてる。
「あんな事、しなきゃよかったな」
わたしがあんな愚かな衝動に呑まれる前は、教室でも楽しそうな姿が見れたのに。
不意に携帯が震えた。
メールかと思ったら着信で、画面を見ると久しく見ていない人の名前が写し出されていた。わたしは一瞬悩みを忘れて通話ボタンを押した。
「…もしもしっ」
「よう、久しぶりだな」
「お久しぶりです!うわっ南沢さんから着信なんて初めてじゃないですか」
「そうだな、俺も勉強忙しい中わざわざ電話してやったわけだ」
「え、どうしたんですか?」
「…お前もやるじゃねーか」
「…え?何がですか」
「倉間にキスしちまったんだろ〜?」
「っ、は!?ちょ…っとなんで、知っ、て」
「倉間に聞いた。あいつ相当テンパってたぜ」
「うわああぁぁ……」
わたしは誰が見ているわけでもないのに顔がどんどん火照っていくのを感じた。やっぱり困らせた。そりゃそうか、ていうか南沢さんに知られてしまった!あの恋愛経験豊富な南沢さんに!
「倉間、南沢さんに相談したんですね…」
「まあだいたいは聞いた。…あいつ、わかってたけど相当餓鬼だな」
「……」
「まあお前も大概だけどな」
「…おっしゃる通りで…」
「今はあいつの整理がついてないだけだからもう少し待ってやれ」
「…はい」
「んじゃ、俺勉強に戻るから」
「、忙しいのにわざわざ…ありがとうございました」
「別に、息抜きがてらだよ。じゃな」
通話が切れた。
なんだかんだ頼れる先輩である南沢さんと話したのも、転校しちゃって以来だから凄く久しぶりだった。
待つ、待つのか。待って何が訪れるのかわからない、倉間の中で何の整理がつくのかわからないけど何があってもそれはわたしが衝動に負けた引き換えだから受け入れよう。
ごめん、あれは凄く狡い事だよ。許されないかもしれない。けどそのお陰で少し強くなれる。
皮肉な事に倉間の唇の感触が、さよならを耐えさせてくれるかもしれない。