嘘吐き
学校に行く気になんてなれない。
丁度金曜だし、もう土曜も休んじゃおう。親に何を言われてもずっとずーっとお布団に入ってたら諦めたみたいで、なんか食べなさいって菓子パン3個くらい枕元に置いてほおって置いてくれた。ありがたい。月曜からは行くつもりだからね。
ガンガンに音楽をかけてみたり、全力で携帯ゲーム機で遊んだりして出来るだけ何も考えられないように時間を過ごした。何もしない事が怖くて、眠れない。眠ろうとすると思い出しちゃうのだ、衝動と感触と、それから景色。
明るんできて、いつもの起きる時間が来て、登校時間になった。
暫くして友達からメールが来たので適当に返す。何人かとやり取りして、授業の時間。倉間も、授業受けてるんだろな、
「だめだ…はあ、」
もう話せないのかなとか、どう思ってるのかとか考えちゃってまた涙が出そうになった。
手近なところにあったイヤホンで耳を塞ぐ。いっそ眠れれば楽なのに。
――――
頭が痛くなってきた。もう何時間音楽で凌いでいるんだろう、そろそろ限界だ。
そこでふと、携帯が鳴った。浜野からの電話だった。
「もしもし」
「苗字?風邪って聞いたんだけど、倉間と何かあった?」
「……浜野…あんた」
電話の後ろで速水が、浜野くんそんな直球に…なんて言ってるのが聞こえた。ほんとに直球だ。奴の良いところでもあるが。
「ちゅーかあの後休むってことはそーゆー事っしょ?」
「…浜野にしては鋭いじゃない」
「って速水が」
「ですよね」
なんだかこうやって二人と話すのも久しぶりだ。なんだかんだ、倉間が避ける限り二人とも話す機会が減っていたみたいだ。
「でさ、今部活終わったとこなんだけどちょっと話さない?倉間抜きの3人で。あいつなーんも話さないんだ」
「…うん、そうだね、ちょっと話そうか」
――――
「このメンツって初めてじゃね?」
「確かに…それにしても、苗字さん…寝れてないんですか」
「え、バレた?」
「顔色ちょー悪いよな」
ファミレスで3人、適当にドリンクバーだけ頼んで各々の飲み物を持ってきたところで話しはじめる。
「まあ、あんまり」
「俺達はさ〜あの時二人で話して、仲直りするかな〜って思ってたわけ」
「それが…一体何があったんですか」
「………まあ、別に、避けてた理由、聞けただけ」
「え、理由ってもしかして革命の話を聞いたんですか?」
「革命…?ん?なにそれ?」
「え…?違うの?」
わたしの前に置いてあるジンジャーエールがカランと軽い音をたてる。速水がアイスコーヒーを掻き混ぜる、浜野がオレンジジュースを飲む。わたしはあの時の言葉をゆっくりと紡ぐ。
「…違くて、…飽きたって言ってた」
「は?」
「はい?」
「え、だから、…飽きたって」
「え?何に?」
「え?わたしに、なんじゃないの」
二人はぽかんとして、顔を見合わせた。ジンジャーエールがからくて、少し涙が出た。
「………倉間くん〜〜〜…」
「はあああ?ちゅーか倉間そんな事言ったの?」
「え…言ったけど、どうしたの」
「いいですか、苗字さん、倉間くんが言ってる事は嘘です。ありえません」
「…なんでそんな事わかるのよ。ほんとに飽きた、のかもしれないじゃない」
「違います…倉間くんは恐らく苗字さんをこれ以上…」
「…っいい、やめて」
飽きた、飽きたんでしょう?
変に期待をしてる自分が哀れだし、また突き落とされるなんてごめんだ。悪いけど速水の言う事だって信じられなくて、わたしは期待をするのを拒んだ。
「…期待させないで、もう、いいの」
「…苗字さん…倉間くんが酷く不器用で天邪鬼な嘘吐きだって事、貴女はわかっている筈です」
「……」
「んー…そゆこと!取り敢えず倉間が苗字に飽きるなんて事無いし、もうちょっとちゃんと話すべきだとオレは思う!」
「…まあどっちにしろ月曜は学校行くよ」
彼等には結局、告白とキスの事を言う事が出来なかった。今考え直すとどうしても稚拙で愚かな衝動に思えて口に出来ないのだ。また話し合う事を勧める二人には悪いが、わたしたちには拭えない気まずさがある。
それから、わたしが休んだ分のノートを速水に借りてお開きになった。倉間がどうであれ、二人に励まされてなんとなく重荷が降りた気がした。
日曜日は殆ど眠っていて、気付けば月曜になっていた。