くちをふさいだ



倉間、倉間、倉間


あいつとの間の距離を、わたしはいつも測っていた。
わたしとあんたは友達だった。友達という堅い檻に自分を閉じ込めて近付き過ぎないようにといつも気を張っていた。叩く、笑う、貶す、言い返す、笑う、笑う、

楽しかった。
偶に溢れそうになる温くて柔らかい想いすら、わたしは受け入れて毎日のように笑い合っていた。



それが、いつからか緩やかに無くなっていった。



倉間がわたしを避けるようになった。わたしが絡もうと近付くとすばしっこく、さも自然なように逃げた。わたしは遠くから倉間が浜野や速水とぎゃーぎゃー騒いでるのを見るだけになった。




倉間、倉間、

「っ、倉間!」

「……」



走って追い掛けた。
部活終わりに待ち伏せをしたわたしを見るからに不自然に避けるから、わたしは衝動的に倉間の腕を掴んだ。サッカーをするときのあの笑顔はどうしたんだと思うくらい、不機嫌な顔で睨まれて怯む。浜野と速水は視界の端で何も言わずに先に帰った。何か言っていたのかもしれないが、わたしには聞こえなかった。



「どうして、避けるの」

「…別に、避けちゃいねーけど」

「うそ。」

「はあ?被害妄想だろ」

「不自然でしょ、今のも」

「知らねーよ」

「…メールも返さない」

「忙しいからな」

「話しかけようとしても…」

「つかさー、」



腕を振り払われて、身構えた。やめてきっと、きっとその言葉はわたしを傷つける。檻に頑丈な鍵をかけてしまうの?倉間の手で



「飽きただけ、」



ガシャン、倉間はあっさりと鍵をかけて歩き始める。捨てられたわたしの想いが駆け巡って溢れだすのを感じる。さよなら、友達。

何を合図にしたのか、わたしは振り切れるように走り出してまた倉間の腕を掴んで思いっきり引いた。思いっきり、小さい倉間が体制を崩すくらい。



「…っ!!」



さよなら友達



「好き」



やわらかかった、倉間、倉間のにおいがしたよ。
檻の中から伸ばした手で必死に掴んだ、掴んだ、でも離さなくちゃだめだね。もう話す事も出来なくなるかもしれないね。ありがとう、好き、最初っから好きだったよ。

わたしは泣き出す寸前まで倉間の驚いた顔を見納めて、それで放心している間に去った。涙は見られないように。だって倉間、すぐ泣き出すような奴って嫌いでしょ?そんな気がする。わたし我慢したよ、偉い?



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