シアノ
もう、二週間になる。
任務に二週間と言うとあまり長い方では無いが、三郎が1週間と言って出発した以上心配してもおかしくない時間が経っている
あの三郎のことだ、何かあったとは思いがたい。しかし、こんなに遅れると思考も悪い方へ行くってもので、わたしの足は気付くと学園の門へ向いてしまっていた
休み時間には出来るだけ小松田さんを訪ねて三郎が帰ってないか確認した。任務帰りは夜中が多いから、私は夜も門へ通った
お陰でわたしはどこかの委員長のようになってしまった。でも三郎の事を考えると眠れなくて、苦しくて、怖くて、ふらふらと長屋を出てしまうのだ
でも、ちょっと小松田さんの声を聞くと安心する。何故かわからないけれど、三郎と同じ雰囲気がするのだ。あんなに調子は違うのに、可笑しな話だ
「…名前さぁん体壊しちゃいますよー?」
「…大丈夫。」
「…もー寝間着だけじゃ寒いですよー」
門の横に座り込んだ私。小松田さんは私の横まで歩いてきて、また間延びした調子で口を開いた
「毎日、こんな夜にまで門に来てるなんて、名前ちゃんは鉢屋三郎君のことすーっごく好きなんだねぇ」
「…わたしだけじゃないよ。みんな心配してる。…でも、わたしは…」
「…ん?」
「…わたしは、三郎が居ないと胸が苦しくて、喉が詰まるの。…もし何かあったら、わたし…」
悲しくなって、膝を抱いた。泣きそうになったので顔を埋めた。
その途端あたたかい温もりに包まれた。驚愕して顔を上げたら、そこには三郎ではなく小松田さん。黒い職員用装束。意味がわからなくて硬直した
「…名前の目が鈍るなんて、ほんとうに寝てないんだな」
「さ、さぶろっ…」
「そもそも小松田さんは私かなり得意なんだよな。特に声」
「ま、さか1週間前から…」
「1週間も名前を抱き締めずに騙し通すのは流石に私でも無理だな。珍しくてこずっただけさ。任務に支障は無いし私は無傷」
「ば、か…三郎っ」
わたしは今まで三郎の変装に騙された事は無かったから、自分でもびっくりした。でも何処か小松田さんと三郎は似ているから妙に頷ける
三郎は小松田さんの変装を解いて、わたしを抱き締め直した
「それにしても今まで毎日小松田さんと夜も一緒にいたなんて妬けるなぁ。そんな薄着だし安心しきってるみたいだけど…雰囲気似てるからって浮気するなよ?」
「なっ…わたしは三郎が心配で門に通ってたんだからっ…それにわたし、三郎が居なくなったら、いつか息もできなくなっちゃうんだ、からっ」
「…よしよしごめんな。居なくならないから泣くなよ。名前の涙には弱いんだ」
またじわじわと涙が浮かんだわたしの頭を撫でてあやしてくれる三郎。声がいつもよりずっと優しくて、間違いなく三郎で、すうっと呼吸が易くなった
「…さぁ、先生に報告をしてから眠ろう。今日は私の部屋に来るだろう?」
「…うん」
「…こんなに隈を作って…私も疲れてるし、雷蔵も居るだろうし、今日は直ぐ寝ような。」
「…わたしは最初からそのつもりだけど」
「つれないなぁー口付けくらいいいだろ?」
「雷蔵居るからだめよ。するならここでして」
「…それも随分大胆な発言だと思うけど」
そう苦笑いで近付く三郎を、わたしは拒まない
息など出来ない口付けの最中、わたしは三郎が居ても居なくても窒息死してしまうのではないかと、そう思った