疼く心
「…あんた何なんだ」
「いや、それわたしの台詞だけど急にどうしたの」
「いや俺の台詞だろ。前から思ってたけどやめろ、俺を掻き乱すな」
意味のわからない事を言いながら無表情で詰め寄る久々知に、わたしはどうすれば良いのか不明だ
壁に手をつくわけでもなくじわじわ近づくから彼のぱっちりした目が視界にいっぱいで、癖のある髪が少し触れた
「わ、わたしは何も…」
「嘘だ。俺苗字見ると苛々したりそわそわしたり、兎に角おかしくなる」
「………」
「近づけば治ると思ったけど、治らない…」
「……久々知、あんた」
「…なぁ、このままじゃくっついちゃう」
わたしは何も言えないで押し黙った。久々知はそのまま近づいてきて、とうとう額が触れた
「…なんで?こんなに近いのにまだ足りない、」
「…っ」
「どうすれば治まる?」
これは新手の誘導尋問なのか
切ない表情をして枯渇するのは久々知の方の筈なのに、なんだかわたしがムラムラして、久々知の唇が、欲しい
「久々知、わたしが、ほしいの?」
「…そう、かもしれない」
「わたしも久々知が、ほしいよ」
「っ…」
「んっ…」
じわじわと両手で久々知の首に触れてこちらから少し仕掛けてみたら、あっさりとわたしの唇に吸い付いた
稚拙で覚束ない動きだったが、必死なところが微笑ましい。久々知は脇から背中に腕を回してきて、更に密着するように引き寄せた
「うっ…は、ぁ」
「……ご、めん急に」
「いいよ、久々知はわたしが好きみたいだから」
「す、好き、なのか」
「そーよ、まさか久々知が恋愛に疎いなんて」
「…だって、こんな気持ち初めてで」
「ふーん…じゃあわたしが教えてあげるわ」
くの一として生きると決めた時から、ときめきなんてとうに忘れたと思っていたのに、
わたしの心に恋をくれた久々知にもう一度焦がれたいと思った