浅知恵返し

※現代



「ねえ…別れよう」

「そう、勝手にすれば」



なにそれなにそれなにそれっ…て、1日くらいはただ憤慨だけが頭の中を回っていて、そしたら燃料切れみたいに何も手がつかなくなった。


事の発端も原因も元凶も何もかもが兵ちゃんにあると思ってたのに、おんなじ教室に居るいつも通りの彼を見ているだけで自分がなんだか醜い生き物のようでならないだなんてわたし頭可笑しい。
そもそもはあの笹山兵太夫が白昼堂々後輩?かなんだか知らないチャラチャラした女子生徒とキス、をしていたのがいけない。
信じられない、と思って冒頭の台詞を言ってやったら勝手にすれば?だって!信じられない!


そうやって昨日まで沸き上がる怒りを何でもかんでもぶつけてたけど、今日はそんな怒りは何故か喉元で涙に変換されてしまうのだ。


「……」



授業も休み時間も机に突っ伏したまま過ぎて、今はもう放課後。教室はすっからかん…というわけでもなく、何故かHRが終わっても夢前が帰っても、兵ちゃんはわたしの3つ斜め前の席から動かなかった。どうして?なんで帰らないの?なんて考えるのも飽きて兵ちゃんを見るのをやめてまた突っ伏した。

ガタン

聞き慣れた椅子と床の擦れる音と一緒にわたしの身体中がびくりと跳ねた。兵ちゃんが動いた。多分呆れたのか何なのかよくわからないけど多分立ち去るんだろうと思って、止まってた筈の涙がまた滲んできた時



「ねえ」



声は真上の方から聞こえた。え、なに?帰ったんじゃないの?呆れたんじゃ、わたしなんかどうでもいいんじゃ、



「僕、めんどくさい女嫌いなんだ」



ぐさりと、何かに刺されたような衝撃に息もできなくなった。顔も姿も見えない状況だけど、わたしを煩わしそうに見下ろす兵ちゃんが容易に想像できて辛い。
自分で言ってこれだけ衝撃だったのだから、兵ちゃんに改めて言われたりしたらわたしどうなっちゃうんだろう



「あれ、見てたんだろ」

「っ、」

「どこから見てたか知らないけど、あれ僕からじゃないからね」

「………」

「あの女、わざわざお前に見えるように仕組んだりして相当暇人らしいね」



仕組む?あの子が?わたしに見えるように?ん?
それじゃあ兵ちゃんは無理矢理されたってことで?そしたらわたしの勘違いで?…なんだか上手く考える事ができない。



「なんか勝手に騒いでたけど、僕はお前と別れるつもりなんかないから」

「っ…」

「で、」



暖かくて優しい何かが、わたしの机に突っ伏した顔を起こそうとするように触れてくる。その手のひらの暖かさがなんだか懐かしくてまた涙が溢れてきた。それによって元からヤバい顔が更に不細工になった事間違いなしで顔を上げたくなかったけど、逆らうと怖いのでゆっくり顔を上げる。つっと涙が頬を伝う



「僕が居なくて、生きていけそうだった?」



無理に決まってる。
わたしは消毒のつもりで、兵ちゃんに縋るようにキスをした。わたしの舌を追うように応えてくれるのが嬉しくて、兵ちゃんがちらりと視線を横に向けた理由を考えてる暇なんて無かった。
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