スクールライフラブ2
「げっ田村!そういえば会計だったな…」
「げっとはなんだ苗字僕に失礼だぞ。そういえばうちの学年に学園祭臨時で人員増加要請出してたな…」
「気付いたらなってた。働きには期待しないでほしい」
「どうせ雑用係だけどせいぜい僕等に迷惑かけるなよ」
「可愛くない!もっと可愛くお願いしてくれたら考えてやってもいけどー?」
「なんで僕がお前に媚び売らなきゃいけないんだ!」
学園全体がそろそろ学園祭の準備を進める頃、わたしは会計室に呼ばれた。入るとそこには中等部高等部各学年の会計委員が各々作業していたが、そこに見知った顔を見つけて咄嗟に話しかけてしまった。
「おい、お前が苗字か」
「はい、会計委員長の潮江先輩ですね?わたしが臨時会計委員補佐の苗字です」
「我等会計委員はこの学園祭シーズンは一年で一番大切な時だ。各部各クラス各委員会教員との連絡、交渉、更に予算計算と多忙の限りだ。よってお前の手を借りたい。主に各所へ連絡、伝票の仕分けを頼む事になる。よろしくな」
「はい、宜しくお願いします」
後ろで田村がこき使ってやるなんて言っていたけど、わたしは何より委員会への連絡の10回に1回くらい学級委員会だといいなとか、もしかして廊下でお見かけ出来たりとかとか!なんて頭の中はお花畑だった。
「…締まりの無い顔だな、やる気あんのか」
「今日は予算会議の作戦立てだからな、お前は帰ってもいいぞ。当日はこれを持って立ってろ」
「これは…」
「盾だ」
我が校の予算会議は半端無いらしいという話を聞く、実際この時期に爆発音とか聞こえたりするから本当なんだろう。それを間近で見れる…というか当事者になれるだなんて思ってもいなかった。
「…頑張ります」
「せいぜい弾除けになれば、よくやった方なんじゃないか」
「え、わたし捨て駒!?」
ていうか弾!?たかが予算会議が一体どんな戦場になってしまうのか全く想像ができない。明日も同じ時間に来いと言う潮江先輩の声にわかりましたと答えて、わたしは帰ろうと会計室のドアを開こうとした。
「失礼します、っとごめんね」
「いえ、わたしの方こそ…っ!!」
ドアはわたしが手をかけるほんの少し前にガラリと音を立てて開いた。会計室に入ろうとした人もまさかドアを開けてすぐ人が居るとは思わなかっただろう、そのまま前進しようとして少しわたしに当たった。
何とも思ってなかったが、降ってくる謝罪の声がなんだか、聴き覚えがある。頭が理解する前に条件反射で心臓が強ばり、顔が熱を帯びる。
「あ、」
「君…あれ?会計委員じゃないよね、どうして会計室に居るの?」
「あ、う、えと」
「…こいつは僕の学年に要請しといた学園祭臨時雑用係として働く駒です」
「…大体あってます」
「ふーん、そっか。予算会議は大変だから怪我とかしないように気を付けなね」
「は、はい!ありがとうございます!」
それから尾浜先輩はわたしににっこり笑顔を向けてからすっと横を通り、潮江先輩に今年の学園祭の総予算についての書類を渡して何やら話し込んでいる。
今までで一番広くわたしの視界に映った尾浜先輩だった。思ってたより背、高いなあ。わたしは勝手に決まってしまった会計委員補佐という大変面倒くさそうな役の代わりになんだかもう充分に報酬を貰えた気がした。せいぜい筆箱程度の先輩をじっくり眺めるくらいできたらしめたものだと思っていたのに、あんな至近距離で、ちょっと指が尾浜先輩のブレザーを擦ったし(わたしが着ているのと変わり無い筈なのに、ずっと上質な布みたいだった)、か、会話なんてしちゃったりしてっ…
「わたしもう死んでも悔いない」
「…じゃあもうお前予算会議での弾除け盾没収だな」
「やめてよ田村!死んじゃうじゃない!」
「…今死にたいって言ってなかったか?」
「なんかちがう…!」
田村は飽きれたみたいに溜め息をついて、お前分かりやす、なんて呟いてた。わたしは帰っていいって言われたけど尾浜先輩が出ていくまでは会計室に居たくて、無理矢理田村の腕を掴んで話し相手をさせた。無事尾浜先輩が会計室を出て行ってすぐ、満足したわたしは上機嫌で帰路についた