引力の暇潰し
「鉢屋」
「…おーあちいー」
「あんた…ちょっとは久々知を見習ったらどうなの」
「こんな暑いのにもっと暑くなる事なんて、よくやるよなぁー…」
「…」
障子を全開にしてでろりと畳に転がり、うちわで力なく扇いでいる鉢屋。
直向きに特訓をしている久々知の声が微かに聞こえている。
五年生は明日、期末試験として組み手の総当たり戦をするらしい。久々知に限らず己を鍛え上げている生徒は沢山居るのだろう。その中でこいつだけが例外で空っぽの五年長屋に居るものだから、思わず話しかけてしまったのだ。
「…ほんと、あんたって損ね」
「…損?はははっ、それは初めて言われたな。どうしてそう思う」
「大衆に属さないのは、苦労するって事でしょう」
「知ったような口だな」
「あんたを見て思っただけ」
「…私は頂点になど興味は無いさ。勝手に付いてくるんだ、」
「それは厄介ね」
わたしなぞは気にも止めていないようで、損という言葉に過敏に反応しじろりと睨まれた。鉢屋は寝転がったままだ。
「人生、痛め付けようが楽しようがこの身は何時か滅びるんだ。楽してなんぼだと思わないか」
「…ならなんで忍術学園に来たの」
「…さあ、どうしてだったかな」
大の字で天井を見つめる鉢屋の瞳には一体何が写っているのか。
「過去…を見ているの?」
「…さあな」
いよいよ顎を伝う汗が、現在の暑さを物語っている。
不意にわたしへ眼を向けた鉢屋がにやりと笑み、言ったのだ
「美味そうだな」
私に費やした時間の水滴の甘美な薫り