僕を怒らせたいの? その勇気だけは褒めてあげるよ。

「………」



凍り付いたのは空気だった。

案の定兵太夫は眼力を増してわたしを睨んだ。そういうの嫌いなタイプだろうなぁとは思ってたけど、まさかこんなに怒るとは

地雷だったかぁ、お年頃だなぁなんて呑気に思ってる場合ではないらしい。




「この僕を子供扱いするなんていい度胸だね。そういうの嫌いだってわかるだろ?」

「あぁ、一年の時の兵ちゃんはあんなに素直だったのになんと嘆かわしい」

「あぁ、名前以外にはわりと素直だよ。てかお前に兵ちゃんとか呼ばれると鳥肌立つ」

「兵ちゃん兵ちゃん可愛いよ兵ちゃんほっぺたふにふに」

「殴れば黙る?」

「家庭内暴力反対!」

「………」

「冷たい目で見るのやめて!」



家庭内に突っ込むのもめんどくさいらしい。
冷ややかな目を一層細めて睨まれたわたしは、きっと団蔵より肝が据わってると思う。だってあいつならきっと顔真っ青にして土下座してるだろう。




「お前はほんとに勇気と度胸だけはあるよね。もうちょっと女らしくなれないの?」

「あら、貴方にはこの二つのたわわな膨らみが見えないのかしら?」

「身体的な話じゃないから」



心底呆れた視線で私の胸元に一瞥をくれた兵太夫は一つため息をついた。失礼な!




「お前さ、変なとこで出しゃばんなよ」

「……」

「なんでそんな事したんだよ」

「なんというか…体が勝手に…」

「僕が守られるようなやつだと思う?こんなの初めてだよ」

「そうだねぇ、兵ちゃん強いもんねぇ」

「………」

「いだだだだ!!!やめてやめて!!」




あろうことか兵太夫はわたしの傷口を抉るように掴んだ。
わたしが涙目になると少し機嫌が良くなったのか手を離す。てか涙目で痛がるの見て機嫌良くなるって何?やはり只者じゃない。




「次こんなことしたらただじゃおかないから。」

「兵太夫酷い……」

「(酷いのはお前だろう)」



兵太夫は何もいわずに保健室から出ていってしまった。苦笑いの乱太郎くんと目が合ったので、曖昧な笑みを返しておいた





(僕の気持ちも知らないで、僕を庇って怪我するなんて許せない。その身体に僕以外が付けた傷があるなんて…)
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