こんな僕だけど




「あ!鉢屋?鉢屋じゃないっ!」

「え、お前、名前?」

「そうそう!うわー鉢屋変わってない!」

「お前も変わってねーな」

「うわっ名前?!」

「竹谷!久しぶりーぼっさぼさは健在ねー」

「名前も変わってないな!」




今日は高校卒業して初めての同窓会だ。それも学年をあげての大きなものだったから、3年でクラスが別れたこいつらとも会えるのだ
皆二年ぶりくらいだけど、髪を染めたり化粧をしたりで様変わりした人も居る。でも基本的に皆の雰囲気は変わってなくて、懐かしい顔ぶれにわたしもおのずとテンションがあがった。




「…不破、くんは?」

「ああ、まだ来てない」

「あんた達従兄弟なんだから一緒に来れば良かったのに」

「ちょっとな」

「…ふぅん」




この場に来て、いろんな友達と再会して楽しく会話をした。誰と合うのも久しぶりで、凄く楽しい

でもやっぱり何処かで不破くんを探していた。わたしの大好きな、不破くんを。卒業するまでに結局想いは告げられず、私たちはばらばらの道を進んだのに今更。




「…お前、彼氏は?」

「いないわよ」

「ほおー」

「なによ。わたしが美人だから意外なのよね知ってる」

「いや、お前の事だ、どうせずるずる雷蔵引きずってんだろ」

「っ…ジョークはジョークで返してよ」

「図星だな」



わたしはあまり強くないのに、目の前のお酒を煽った。成人を過ぎた同窓会なんて皆昔話を肴に酒を飲みに来たようなものなのだ。
それなのにわたしの肴は随分苦い



「あーあ、どうせわたしはまだ不破くんが好きですよー。だって不破くんより良い人が居ないんだもん」

「そうかそうか」

「なによー鉢屋意味深ねー白状しなさいよおらおら」

「なんだお前酔うと面倒くさいな」

「…三郎?」

「うわっ雷蔵」

「え」



同窓会会場のお店入り口、不破くんは今来たばかりのようだった。わたしは酔いで浮いてた気分も飛んで、鉢屋を掴んでいた手を離した


今日のメイクだって可愛いワンピースだって巻いた髪だって全部、不破くんの懐かしい柔らかい雰囲気を思い浮かべながら用意したのだ
変わらない不破くんの雰囲気に安堵して、私服にどきっとして、柔らかい笑顔には暗い何かを、感じた




「久しぶりだね、名前ちゃん」

「う、うん。不破くんも相変わらずふわふわしてて、可愛くて、…変わってないね」

「そうかな?名前ちゃんも可愛いよ。そのワンピース似合ってる」

「あ、ありがとう」





不破くんが変わってないだなんて、わたしは嘘をついた。だって彼は、高校の時より表情も声もずっと落ち着いてなんだか大人になっているのだ
そんな不破くんはわたしの隣に鉢屋と替わって座った。鉢屋はごゆっくりなんて言って自分のグラスを持って何処かへ行ってしまった。わたしは、高鳴る心臓を抱えて必死に動揺を隠す
だって、大好きだった人が格好よくなってまた現れたら、誰だって緊張しちゃうよね



「大学はどう?」

「それなりだよ。不破くんは?確かみんな同じ大学行ったんだよね」

「みんな一緒だから、なんだか高校と変わらない生活みたいだよ」

「そっかー…いいな、楽しそう」

「楽しいよ、でも…」

「ん?」

「…名前ちゃんも居た、高2の時の方が、楽しかったな」




ふっと、時が止まったみたいになった。言葉だけ聞けばなんてことないお世辞だが、不破くんは、不破くんの目は、何か重い物を湛えているようだった



すると突然、大きな音と笑い声が響いた。咄嗟に不破くんから目を外してそちらを見た。どうやら酔いが回って何かしでかした男の子が転んだらしい。竹谷かな

でもその視線もまた不破くんに戻った。私の手が、温かくて柔らかくて大きな何かに包まれた。
不破くんが、握ってきたのだ



「な、不破…くん?」

「僕ね、愛し方が重いみたいなんだ」

「え…?」

「すぐ不安になって、すぐ嫉妬して、煙たがられる。僕と居ても幸せになれない」



高校の時、あんなに騒いでいたふわふわした雰囲気も髪も表情も健在で、でも大人になった不破くん。緊張はピークだけど、わたしは必死に言葉の意味を噛んだ



「僕、ずっと悩んでたんだ。でもね、」

「……」

「僕以外の誰かが、名前ちゃんの隣に居るなんてやっぱり嫌なんだ」

「……」

「だから、僕と付き合ってください。名前ちゃんを大好きな気持ちだけは誰にも負けないよ。」

「ふ、不破くん…」



そう言って不破くんが浮かべた笑顔は、わたしが高校の時に焦がれたふんわり柔らかいものだった。
やっぱり不破くんはとっても可愛い!
大好きな気持ちが溢れて、わたしは不破くんの手を握り返した



「わたしも!わたしもだよ!ずっと不破くんの事が好きだった」

「…ありがとう、僕知ってたよ」

「えっ!?」

「三郎は僕の味方だからね」

「あ、あいつ…」

「ね、名前ちゃん。ここ抜け出して、二人だけでどっか行こうか」

「え?……うん!」




それから私たちは手を繋いだまま、同窓会会場を抜け出した。
途中竹谷と鉢屋の肩を叩いて手を振ったら、二人とも嬉しそうな顔で振り返してくれた




「…名前ちゃん、今日は大目に見るけど、今後僕以外の男に触れたらお仕置きするからね」

「え、あ、はい」

「あと男のアドレスは全部消してね」



そんなに可愛い笑顔で言われたらわたしも逆らえない。
いや、そんな不破くんも大好きです
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