裏表ラブ
※現代、成長
「…」
「ああ、名前ちゃん。どうしたのこんなとこで」
「ちょっと捜し物、だけど」
「捜し物ってこれ?それとも僕?」
手に見慣れた携帯を持ちにっこりと人の良い笑みを浮かべた不破くん。でもその指には煙草が挟まれ、口は煙と共にふざけた言葉を吐く
図書館で自習をしていてふと携帯が無いことに気付いたわたしは、先程まで居た研究棟へ忘れてないか見に行くつもりだった
図書館から研究棟へ行くにはこの建物間の暗い道が一番の近道なのだ
「…いつものふわふわな不破くんは何処?」
「あはは、面白い事でも言ったつもり?」
「…まさかあの不破くんが喫煙者なんて、」
「だぁれも本当の僕なんて知らない」
彼はにっこりとした笑顔は崩さずに煙草を口に咥えた
辺りは苦い薫りで満たされている。これはメンソールも何も入っていない
わたしが何も言わないと彼はかちかちと携帯を弄りだした
「…ちょっと、それわたしの」
「……」
「何してるの、返して」
「……」
「ちょっと不破くっ…」
「煩いなぁ黙ってよ」
いつもの彼からは想像もできないような煩わしそうな顔で、自分の咥えていた煙草をわたしに咥えさせた
「にっが」
「子供」
「…なんでそんな性格違うのよ。わたしの事嫌いなの?」
「なにその単細胞みたいな解釈。つまらない上に面白味もない」
「……」
不破くんはわたしが指に挟んで持て余していた煙草を奪い、また咥えた
「はい、携帯」
「……」
「じゃあね」
あっさりと携帯を返してくれた不破くんはさっさと行ってしまった
一体何だったんだろう。今のは夢?
暫く現実が飲み込めなかったが、私はとりあえず鉢屋がこの事を知っているか連絡をとろうとした
「な、なにこれっ」
履歴が一つも無くなっている。びっくりしてアドレス帳を見たら、そこには不破雷蔵のアドレスしか登録されていなかった
あいつ、なんかやけに弄ってると思ったら、
とりあえずそうするしか選択肢がないので通話ボタンを押した
「随分時間かかったね。」
「な、なんなの?理解できない」
「送信履歴見てみなよ」
「は?」
「見ろっつってんの」
「…っ態度でかい」
なんだかイラッとしたのでそのまま通話を切って送信履歴を見た
to:けま先輩
sub:ごめんなさい
わたし雷蔵くんと付き合う事になったので、先輩の気持ちには応えられません。ごめんなさい
「な、にこれ」
勿論付き合う事になんてなってないしこんなメールを打った覚えもない
昨日食満先輩に想いを告げられて、どんな風に断ろうか手をこまねいていたがわたしはこの事を誰にも言っていない筈だ
タイミングを図ったように携帯が着信した。案の定ディスプレイには不破雷蔵の文字
「そういうことだから」
「何がそういうことなのかさっぱりわからないから!」
「…まさか此処までしても解らないの僕の気持ち。鈍感にも程がある」
「し、失礼な!大体予想はつくわよっ…認められないだけで…」
「認めなよ。僕は君が好き」
「っ…」
「甘い僕の方が良い?ねぇ名前ちゃん、僕ずっと前から好きだったんだよ?」
「や、やこしいから、」
「ねぇ、名前ちゃんは?」
なんだこれこの数分で展開変わりすぎじゃない?えーいもうなんとでもなれ!
「…わ、たしだって好きだったわよ!」
「はははっ知ってた」
「っ…わたし甘い方がいいから」
「どっちも僕だから両方愛してね」
ギャップに萌えたなんて、悔しくて言えない