地味な名手





「……」

「………おい三郎、あいつなんであんな不機嫌なんだよ」

「そりゃあ、あれだろ」

「あれか…」




「「席替え…」」

「煩い全部聞こえてるわよおおぉぉ!!」





そう、本日席替えなのです。席替え宣言した級長鉢屋はもれなく爆発しろ!まぁ鉢屋に言い渡したのは先生なんだろうけど

念願だった不破くんの隣の席をゲットした数ヵ月前の自分が羨ましい…
不破くんの隣でふんわり幸せだったわたしに、今更隣解雇だなんて酷すぎる!されたら次隣になったおめでたいひとを視線で殺せるかもしれないっ…!





「おお怖い」

「勝手に心読まないで」

「顔に書いてある」

「あー離れたくない!せめて斜め!前後も可!」

「なんだかんだこの席俺等集まって楽しかったよな」

「いーや名前は俺達の事は毛ほども考えてないぞ」

「……まぁ毛くらいは」

「毛レベルかよ」

「煩いわたし今念じてるんだから!!奇跡を信じてるわたし!!」

「またみんな近いといいよねー」

「う、うん…!不破くんも祈って!」

「え?う…うん!」





近くでありますよーにーなんて、本気でお祈りを始めた不破くんにわたしは自分のお祈りそっちのけで不破くんを凝視





「な、なんなのほんと可愛すぎ」

「あーあーご馳走様、んじゃくじ引きといきますか」

「わーっお願い神様鉢屋様!」

「………お前、地味に的を得ているってよく言われるだろ」

「…いや、初めて言われたけど」

「……まあいいや」

「……」

「?」





鉢屋は意味のわからない奴だから一々気にしてたらもたないもたない!

担任と代わり教壇に立った鉢屋はたるそうにくじの入った箱を教卓に出して黒板に席順のマスを書いて端から1、2と番号を振った
端の席から順に教卓の前に並ぶ。教室内は祈るような声やら何やらで騒がしい





「…………」

「後ろ詰まってるぞー」

「………い、いきます」

「おー………何番?」

「2…8…にじゅう、はち…ふわ…」

「お前の脳内は雷蔵しかないのか」

「胸を張って言う!YESと!」

「あーわかったから捌ける」

「不破くん!!後は不破くんにかかってるのよ!!」

「あ、ちなみに俺31!だから隣の隣の隣の…ん?」

「頭の弱い竹谷は黙ってて」

「酷っ!!」





私が見守る中不破くんは何やら鉢屋と話してからくじを引いて、わたし達の所へ戻ってきた。もちろんわたしは休まず念じている





「な、な、な、何番、だった…?」

「僕は29だったよ。苗字さんは?」

「えっ!ええっ!?隣!隣だよ不破くんっ!」

「わっ、ほんとだ!またよろしくね」

「うん!すごいすごい!奇跡だよ!二連続隣!あ、鉢屋っ隣!不破くんと隣!」

「そしてその隣俺な」

「あれ?じゃあその隣俺だ」

「みんなまた近いんだ、苗字さんのお祈り通じたね」

「え?あ、うん!」




「……まぁ、間違いはないよな」

「雷蔵オンリーだっただけでな」

「そこ!煩いけど今気分良いから許す!」

「許すのかよ」

「まぁよろしくなー!」






こうやって高校二年の最後の席替えは終わった。それからもずっと楽しくて、先生によく″後ろ四人煩い″と怒られたのも良い思い出だ。
でもそれは三年にあがるときクラスが別れて終わった









「三郎、ありがとう」

「いや、これくらいお安い御用だけど……こんな回りくどいことしてないで告白すればいいだろ」

「…それは、できないよ」






そんな会話がされていたのを知っていたら、無駄にこの何年を過ごしてなかったかも、しれない
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