おこさま
「ん…へんなあじ…」
「あ、ごめんね。紅落とすの忘れちゃった」
「べに…」
十歳のお子様が紅の味など知るわけがない。大抵の子供というのは紅の味を嫌うものだから、鏡台の上の手拭いに手を伸ばす。
わたしの膝の上に向かい合って乗る兵太夫。産まれ出てからまだ十年しか経ていない身体は柔らかく、軽い。斜めに傾いたわたしの身体に易くバランスを崩した兵太夫は、わたしの着物の合わせのあたりを掴んだ。ぞわりと這う感覚がくすぐったい
「とっちゃうの?」
「ん?」
「べに…」
体制を直しても離れない小さな手。円らな瞳は、ぐいと紅を拭うわたしの口元に釘付けだった
ふわりと体温に温まる柔らかい空気が舞う。それはなんとも甘い薫りがする、子供の薫りだ
「…まだ残ってる」
「ん…」
兵太夫は柔く吸い付くように口付けをしてきた。わたしの唇の端を小さな舌が行ったり来たりを繰り返す。
合わせあたりを握る手のひらはわざとらしく首元をなじりながら後ろへ回され、わたしはその感覚に首を竦めた
薫りが、濃くなる。
「ん…兵だゆ…」
既に紅の気配は無い。
兵太夫の目的も変わって、唇は全体を合わせ舌は口内を遊んだ
行為の激しさが増し気分が乗ってきたのか、兵太夫は腰を上げ更に密着するように座りなおした
「ぅ…ん、あ」
そのまま体重をぐっとかけてきたので、唇に意識を奪われていたわたしはいとも簡単に畳に髪を散らせた
それからわたしも兵太夫に倣って、わざとらしく太ももを這って腰に腕を回したら、びくりと身体が跳ねて唇が離れてしまった
「兵太夫、可愛い」
「…嬉しくない」
「兵太夫、大好き」
「…僕だって」
背徳感の快感。
甘い子供の薫りと輝く瞳に酔いそうなわたしの愚かな脳
利発そうなお顔は、息のつまる近さで、愉快そうに微笑んでいた
「さぁ、次はどうするの?」