したたかな男
※すこおし下品
「え?くのたま色の実習あるの?」
「ごめん。ごめんね、わたしは…わたしはくの一にならなくちゃいけないの。他の男に抱かれた女の子が嫌なら、別れるから」
「…ふーん、わかったよ。じゃあ君とはさようならだ」
当たり前、当たり前な反応なんだ。すごく、凄く悩んで告げた事に勘ちゃんはあっさり頷いた。それが悲しいだなんて、苦しいだなんて考えちゃいけない、いけないんだ
勘ちゃんは静かに襖を滑らせて、忍者らしく足音一つたてずに部屋を後にした。
「えええぇーー!!!!」
「あっさり…終わったなあ」
「あの尾浜勘右衛門が!?あのほんわかカップルが!?こんな終わり方ってありなの!?」
「当然よ。今後何人に足を開くと思ってるの。そんな女…」
「名前あんなに悩んで告げたのにあり得ないわあの男!」
「いいの、いいのよ。今度の実習は学園内の忍たま相手。見知った奴が自分の彼女を抱くなんて、嫌に決まってる」
「でも……」
同室の子は、わたしがどれだけ悩んだか知っているから余計わたしを心配して、わたしの代わりに苦しんでくれた。
しかし、実習は明日だった。
朝から勘ちゃんを無意識で探してしまっているが、余りにも見かけないので最後は意識下で走り回っていたと思う。それでも見つからず、とうとう日も傾き外出の準備を余儀なくされた。
今回の実習は無作為に決められた忍たまの待つ、そういうお店の決められた部屋に入ってお相手をするという内容だ。だから部屋に入るまで相手が誰かわからない。これが勘右衛門だったら…いや、もうどうしようもないだろう
「さあ、苗字さんはこの部屋よ」
「はい。」
手のひらに先生が部屋の番号を書く。ああ、この部屋に今夜の相手が居るのね。
数字をなぞられた手のひらが妙に汗をかいて、煌びやかな着物に擦り付けた
心臓が高鳴る。不安と罪悪感がじわりと身体を抜ける。襖の奥にひっそりと腰を落ち着かせているのは…一体
埒が開かないと、一息に引いた襖の奥に居たのは、
「、久々知」
「そうか、名前か、」
なんて事だ。これが見ず知らずの六年や五年、下級生でも良かったのに。なぜよりにもよって、勘ちゃんの友人で、同じ組の、久々知なんだろう
「…勘右衛門と別れたそうじゃないか。」
「…わたしはこんなふうにこれから何人に足を開くかわからないんだもの。それが勘ちゃんは、やっぱり嫌だったみたいで…」
「……嫌に決まってるさ。なあ、名前」
「え…?」
久々知はいきなりわたしを、勢いよく押し倒した。畳の香りが一層濃くなって、久々知の影の掛かった顔が、憤りを孕んで歪んだ
おかしい。久々知はわたしを名前で呼んだりしない
「部屋に入って久々知だったって知って、どう思った?顔が良いから良かったと思った?それとも厄介だとでも思った?」
「っ……か、勘ちゃ」
「はははっ今更気付いた?」
勘ちゃんは、久々知の変装を解いて嫌な笑みを浮かべた。
どうして?どうして勘ちゃんが居るんだろう、何故久々知の変装をしていたの?
「な、なんで」
「おれがお前を逃がすとでも思った?ねぇ、おれを誰だと思ってるの?五年い組さ、久々知の堅い頭じゃ出来ない応用だって効く」
「応用…勘ちゃん、まさか…」
「先生であろうがくじに仕掛けなんて朝飯前だよ。名前がくの一をしたいならすればいいさ。おれが依頼人でも当人でも片っ端から殺せばいい」
「で、でもそれじゃ勘ちゃんに迷惑が…」
「……これだけの男を彼氏にしてるっていうのに、何を戸惑ってるんだか」
勘ちゃんは呆れたみたいな仕草をして、お喋りは終わりとでも言うように口付けをせがんだ
「ま、まって」
「……何?」
「だ、だって怒ってたじゃない…さようならって言ったのに…」
「だって名前ってば」
「んっ」
口付けを阻まれて少し機嫌の悪かった勘ちゃんは、首元にわざと豊富な髪を滑らせ、手でわたしの身体をまさぐった。
「泣いて喚いて助けを求めれば良かったんだ、勘ちゃんと別れたくないって。でも、他の男に抱かれるのは仕方ないみたいに言うんだもん。」
「ひゃ、勘ちゃ…」
「だからちょっと怒っちゃった。名前の足はおれにだけ開けばいいんだからね」
なんと強かな男なんだろう。
わたしはきっと大船に乗った気分で身体も心も預けてしまえばいいんだ、と思った。