グッバイ・メランコリー
※現代、成長
ああ、疲れた。
今日も残業で上司に扱き使われて、後輩の尻拭いに追われた。新プロジェクトは私がチーフとして必ず成功させなければいけないから、神経が尖るのも致し方ないだろう。
とはいっても、昨日つまらない事で彼氏と喧嘩してしまったのは致し方ないじゃ済まされない。三郎、すごい怒ってたなぁ…
どうやって謝ろう。結構重い喧嘩だったからな、
三郎、まだ怒ってるかな
思考に耽りながら信号待ちをしていたら、急に目の前に車が止まった。その紅い車体には見覚えがあって、誰が運転してるのかなんてすぐわかった
「三郎、」
「お疲れ、乗れよ」
「三郎…有り難う」
「いーよ、お前疲れてんのにむきになった俺が悪い」
「ううん、私こそ、」
「腹減ったろ、食い行こ」
「うん…」
慣れた動きで車を発進させた三郎の横顔が柔らかい表情をしていて、なんだか泣きそうだ。ほんとなんで喧嘩なんてしてたんだろ。三郎はこんなにいい男、なのに
「俺がイイ男だって感動してるだろ?」
「あははっ当たり当たり」
「喧嘩なんてつまらないと思ったんだよ。俺は名前ともっとずっと有意義に過ごしたい。それがのんびりテレビ見てる時間でも一緒に食事してる時間でも楽しく話してる時間でもいい」
「うん、」
「俺は名前に無理はさせたくないし、長く、一緒に居たいと思ったんだ」
「表現が曖昧ね?」
「あー、もうちょい待って」
「…待ってる。いつでも待ってるよ」
「……んな顔するなよ。……ほんとはレストランで渡すつもりだったんだ」
三郎は運転しながら何やらズボンから箱を取り出して私に渡してきた
これが、どんな物を入れる箱なのかわかる。そう、煩い上司が時々見つめる幸せの詰まった輝く物が
「…さ、三郎」
「…開けろよ」
ゆっくり開けると中には、外の流れる街灯に照らされて忙しくキラキラ輝く指輪があった
「…待ってろ、今信号止まっ……おい、まだ何も言ってねーぞ」
「大好き、三郎大好き」
「…俺にも言わせろ」
三郎は、車が止まって思わず抱きついた私の肩を柔く押して距離を取った
「ずっと名前と一緒に居たい。だから、結婚しよう」
「わたしで、いいの?」
「勿論。あーあ、レストランでする筈だったのに名前があんな顔するから」
「そそられた?」
「……」
「…?」
「予約キャンセル。家帰るぞ」
「ええっ?お腹空いてるんだけど」
「俺がなんか作るから。…事が済んだら」
「わ、わたし疲れてるんだけど」
「名前が悪い」
「無理させたくないって言ったばかりじゃ…」
「嫌?」
馬鹿馬鹿。こんなに幸せに包まれて疲れなんてどこかへ行ったに決まってるじゃない
「……ほどほどにしてよ」
「大丈夫。俺が動くから」
「なにが大丈夫なのよ……そう言って一回で終わった事なんて無いくせに」
「愛ゆえだよ」
「もー…ちゃんとご飯作ってよね」
「名前が意識飛ばさなかったらな」
「て、手加減してよ!」
「ムリムリ」
これからも私はきっと幸せなんだ、この鉢屋三郎という人と。喧嘩もたまにはするけど、きっとすぐにまた幸せにしてくれる
だから私も彼の無理を聞いてあげようかな。私も彼が大好きなのだから
「俺も好きだよ」
「…幸せにしてね」
「勿論」