癇癪鎮静法



「うるさいうるさいうるさい!!」



言葉尻上がりに叫ぶ声が空気を裂いた。静かだったから余計響いてわたしの耳にまで届いた。
怒鳴り声がした方へ小走りに向かって角を曲がると、少し先に笹山くんと数人のくのたまが居た。くのたま達は可哀想になるほど驚いていて、笹山くんはこれ以上無い程彼女達を睨み、拳を強く握っていた。




「ご、ごめんね笹山くん、私たち…」

「何が悪いか分かってないのに謝られても無意味だ。僕はおまえらみたいな不細工と違って顔を褒められるのが大嫌いなんだよ!誰も僕を見てない顔しか見てない何も分かってない!!」

「ひっご、ごめんなさ」

「失せろ!今すぐ消えろよ!!」



怖気付いたくのたま達は涙すら光らせて足早に去っていった
残ったのは俯いている笹山くんと覗き見るわたしだけだ



「お前も消えろ」

「笹山くんが癇癪癖持ちだって聞いたことあるけどほんとだったんだね」

「煩い、今機嫌が悪いんだよわかんないのか」

「わかんないよ君の気持ちなんて」

「はあ?…僕を怒らせにきたのか?嘲笑いに?ふざけるな」

「だって誰にも分からないでしょう?他人の気持ちなんて」

「…」

「だって笹山くん、今わたしがなんて思ってるのかわかる?」

「……」

「…わたし君の事がもっとよく知りたいと思ってるの」



それまで睨み殺す勢いだった笹山くんの目が大きく開かれた。怪訝そうな眉は健在だが、これはこれではじめて見た表情だからわたしは嬉しくて顔が緩んでしまう




「虐めっ子のようで素直じゃなくて天邪鬼だなんてとってもわたしの好み。川西くんと笹山くんで迷ってるの」

「…なにそれ」

「甘いだけの子なんてつまんない。難攻不落を落としてこそでしょ?」

「…悪趣味」

「さっき珍しい表情見せてくれたから笹山くんに一点ね」



笹山くんとの距離を詰めて、わたしは彼の顔の線を撫でるようになぞった。それでもだめだったから、わたしはそっと笹山くんの眉間に口付けた
前髪がふわふわと風に揺れる。わたしの唇には柔らかい髪の感触が名残惜しく残った



「っ……」

「ふふっ…そっちの方がずぅっと可愛い」



眉間の皺が消えた笹山くんは、さっきよりずっと可愛くてわたし好み。陥れる側を陥れるなんてほんとに素敵、



「またね」
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