(一部ストーリーネタバレあり)
暗闇の中にいた。
不思議と怯えや恐怖はなく、ただただ暗い。
目が慣れてもいいというのにいつまでたっても暗いのだからもう目を開けているのかすらわからない。
それが夢であるのか、はたまた、寝床で金縛りになっているのか。金縛りと言うような緊張感はないので夢なのだろう。
「こんなところまで来たか。」
その声には聞き覚えがあった。
はくはくと口を動かしても声は届かない。
ずっと焦がれていたのだ。思いの丈をぶつけるくらいは許されてもよかろうに、それすら敵わないのだから涙が出そうだ。
これが悔しいのか嬉しいのか、もうそれすらもわからない。
そんな私を見てか、彼は笑った。
「あの時以来だな。息災でなによりだ。」
あの時、か。
少し前まで死ぬか滅ぶかみたいなところだったのだけどね、キミは随分と楽しんでいた。来てくれてとても嬉しかったんだよ。
唐突に火種求めてきて、普通につけたけども…あのあと皆から質問責めにされた。
「ああ、あの時は言葉を交わす暇すらなかったからな。何?怒っているのか、クハハ許せ!何せオレの手持ちの炎では煙草を焼き切ってしまうのでな、」
他人事のように言ってくれたものだ。
「泣くなマスター、何を涙する必要がある。お前は勝利し、勝ったのだ。」
呪いがないからなのか、はたまた、それがあの時の最後のための演出であり、ソロモンに対しての欺きであったのかわからない。
しかしながらその声色が心なしか穏やかで、胸の奥にまで染み込むようで余計な涙がそそられる。
「あの7日間のことは、お前の記憶に有れど俺との仮初めの繋がりなどは消滅と共に失せたというのに。
あの忌々しき魔術王の城に喚ばれたと言う事実は、リツカ、お前との因果となったのであろうよ。」
それでもキミは私をマスターと呼んでくれるのだね。仮初めの繋がりすらない、英霊と一介の魔術師でしかない私を。
そんなひとりごちる私をまたエドモンは鼻で嗤った。
「それ以外にお前と俺の関係として出来うるものはあるまいよ」
まあ、そうなんだろう。
それに、
「ん?」
これは因果ではない。
私にとっての不幸ではないのだから。
それは、絆が生まれたといってもよいのでは?
「フン、笑わせてくれるなよマスター。お前はそもそも"オレ"を正式に召喚すらできていない。それで貯まる絆などあれば魔神柱に奴らも遅れなどとらないだろう。」
ぐ、言ってくれる。
こちらとしてはずっと呼んではいるのだけどなあ。だからこうして夢にまで見ている。
「知っているさ、それにだ。よい推理をしているがただの夢、とは少し違うがな。」
つまりどう言うことだってばよ、
「わからなくていい、
リツカ。そう遠からず内にまた会えるだろうさ、お前との縁が深く出来なければこうしてお前が俺の元へ落ちることもなかっただろう。」
嗚呼、
そうか、これは…この闇は岩窟王エドモン・ダンテスそのものだったのか。
魔術師として未熟な私だが流石に今までの苦労が実を結び小さな奇跡を起こせたのだろう、アルテミスよりはほんの些細な奇跡だ。 いつかで出逢う彼との繋がりを利用した細やかだが私にとっては大事な逢瀬。
また、逢えるのかと、心がざわめく。
「ああ、そうだ。だからあまり嘆くな、いくら想われているとはいえそう毎晩枕を濡らされる原因となっては俺とて心地よいものではないからな。」
わかった。期待せず待つとするよ
「否。待て、しかして希望せよ…だ、マスター。」
枕は濡れていない。
目覚めた朝は、あんなに泣きはらしたことがそれこそ夢のようにスッキリとした朝だった。
20170207