「どうしましたかレディ・マシュ、改まって」

「ベディヴィエールさん、その…貴方は先輩のことがお好きなんですか?」

少し赤らんだように見える顔はいくらか緊張で強張っているように見えた。

 彼女――マシュ・キリエライトはマスターに対して高く目映い、焦がれるような好意を持ってることは初めて見たときから感じ取れていたことだ。
恐らく主従よりも近く、家族より熱く切望し合う関係。ベディヴィエールに声をかけてきたとき、彼女は乙女の顔をしていた。
それを暖かく見守りたいというのがベディヴィエールとしての願いでもある。

「まさか、そんな恐れ多い…。そんなことはしませんよ、

 騎士として生涯を捧げます。それは彼女を支えてもあくまで主従関係であり、そこまで踏み込む気はありませんよ」

「そう―――、なんですね」

こう言えば彼女はほっと息をつき安堵の微笑みをみせるのかと思ったのだが、彼女の憂いは今一取れない。
 マシュもまたブリテンの騎士であるサーヴァントと言っても違い無い、言ってしまえばベディヴィエールにとっては妹なような存在で。願わくばその表情に曇りが無いよう願って止まないのだが。それを汲み取れず自分の至らなさに思わず焦燥が生まれる。

「何か気分を害しましたか?レディ。」

「いえっ、私が勘違いしていました。
 ベディヴィエールさんであったなら先輩を安心して…と、でも思い違いだったみたいで申し訳ないです。」

それでは私はこれで。
と、会釈をして駆けていく少女に彼は思い当たる節がなかった訳ではない。

マスター、リツカは王ではない。騎士でもない。
重すぎる使命を背負い込まされた一人の少女だ。
頼れるサーヴァントも多くなく、まだ世間も知らず、自らを守る力もない。
そんなマスターにベディヴィエールが熱心に世話を妬いてしまうのは仕方がない。マスターには精一杯の出来るだけの安心を与えたい。願わくばその後の安寧も。そう願い共に過ごしてきた。それでもこの召還に応じて彼女の人柄や生き方に惹かれているのは確かであるが、それが恋心であった訳ではない。
年頃の異性に仕えると言うことはなかったので慣れぬ思いもしたし、色々と考えることもあった。だが仕えるべき主に淡い思いを浮かべることなど、しなかったはずなのだ。
共に在り、彼女の側に居られるのならば、それでよかった。他の信用に足らないサーヴァントが彼女に仕えるのはいい気がしなかったし、敬愛しているマスターを軽率な男の悪戯に手を出させることも赦せなかった。

結果としてマスターの周りの異性を遠ざけ色恋や婚期を遅らせているのか、と言われれば確かにその通り。責められれば心から謝る。…気にするほどの年齢ではないと思うのだが…、

彼女は至らない自分に背中を任せて常に共に戦ってくれた。
烏滸がましい話だが彼女にとっての特別であれたのならそれが実に喜ばしいことだ。
マスターにとっての一番はマシュであるのはわかっている。それならば男としては彼女にとっての一番に、

「!!!!」

衝動的にベディヴィエールは叫びたくなって、頭を抱え込みたくなる。
つい勢いよく立ち上がった際激しく脚をぶつけ、その衝撃で少し熱が冷める。

落ち着くかと思った矢先、足音が、彼の人が来るのがわかってもうベディヴィエールは顔を覆ってしまいたくなった。
何故今、と思えど元より彼女とは常日頃から共にいた。今こうして一人でいる時間が長い方が珍しいほどに。どうか、せめてもう少し時間を、心の暇を…、そう思わざるをえない。せめて取り繕えなければ。

「ベディヴィエール?なんだかすごい音したから…」

少し息を切らしたように駆けつけた主に平成を装いたい心が高鳴る。

嗚呼、これだからこのお人は…。

「申し訳ありません、少し足先をぶつけてしまいまして」

「え?本当?あはは、キミもそんなことがあるんだね?すごい音がしたけど本当に大丈夫?どっちの足?」


「えっ、と」

「?」

少し距離が近いですマスター…。
等というには剰りにも烏滸がましくて。だからといって熱くなった頭はくらくらとして、吐いた熱を含んだ息が彼女に掛かりそうでもあって、息すらままならず嫌な汗が背を伝った。

「なんで避けるの?」

「いえ、その、何ともありませんので…!」

「そう?」

周りはとっくにもう気づいている。
ベディヴィエールが無意識にマスターを恋人待遇して徐々に外堀埋めていき、行き詰まった二人が一緒になるまでの猶予はもう余り無い。

20170103

なんだか恋愛っぽいネタ書くのこそばゆくって書きづらいです。
女鯖なら書きやすいんですが…多分本編で見かけることが多いからなのか性にあっているのか…。
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