Rain and red thread(高宮緑) | ナノ


※高宮/緑宮/高+緑前提の話。宮地先輩は大学生。案外先輩が恋愛にだらしなくなってます
※仲良くじゃれてる高尾と緑間を見るのが大好きだった宮地というのをベースにしています
※シーンがめまぐるしく変わる為、解釈に戸惑うかもしれませんが、そこはどうぞご自由にお願い致します
※最終的に緑間と高尾が険悪な仲になるような揶揄がありますので、そういうのが苦手な方はお引き取りください

ちなみにとある歌を大きなバックテーマにして書きました。
ベースの解釈は公式だと言われているものですので、知っている方は雰囲気とかで分かるかもしれません。
にこにこしている動画の中にある歌になります。
もしかしたらタイトルで気づく方もいるかもしれないです。

軽い暴力表現がございます。

大丈夫な方はそのまま下へスクロール。

















 講義終了の合図がなってまず最初にする事は、どうやっても理解できなかった箇所のマーク。首を少し動かせばごき、と豪快に骨がなって隣に座っていた友人に笑われる。次にするのは背伸び。なまじここ数週間は偉大なるレポート様のおかげでまったく体を動かせていない。
 あんなに毎日やっていた俺の大事な大事なバスケは、大学へ進学してから一気にその頻度を減らした。大人ってめんどくせーな、すたたと最新のスマートフォンの文字パネルをフリックして、そう呟く。1分じっとそこに座ったまま待っていると、いつもどおり馬鹿みたいに早い反応が来る。

@mymy_miyaji まだ若いじゃないっすか!

 二歳の差を舐めてんじゃねーぞ、こちとら最近お前の言う言語を理解するだけでもいっぱいいっぱいだちくしょう。膝にかけていたカーディガンの袖に腕を通して、そのまま正門に向かって大学を出る。そのついでにさっき来た返事に素早く返答し返す。俺チョー優しい先輩。

@tko10bsk 原付で轢くぞ

「ちょ、酷くねっすか!?」
 当たり前の様に門の前にいるものだから、正直一瞬びくりとしてしかめっ面をする。そりゃ私服の人間しかいない大学に、真っ黒な学ランを来た奴がいると誰でも興味を持つだろう。大声でそう叫んだそいつの周囲には、見ず知らずの女子達数人がいかにもおもしろそうに高尾を囲んでいる。
 スルーしてそのまま通り越そうとして腕を掴まれる。
み、や、じ、さん。
ぞくりと背中が戦慄いた。いつからか定期的に学校へ訪れては、こうして待たれるようになった。秀徳からこの大学は電車を乗り継いで30分くらい。よく飽きないなと聞いた事もあったけれど、そこは愛の力でっすと極めつけの笑顔を食らってからは何も言っていない。
そして、奴がこうして俺の帰りを迎えに来る日は、至って特別な事があるわけでもない。そう、普通だった。女子を軽くあしらって、そのまま高尾と賑わいのある学園線付近を歩いていく。するりと絡まったその指先を、ため息を一つだけ吐く程度で拒絶することなく、握り返す。
「宮地さん顔、顔真っ赤ですよ」
「・・・うるせーよ」

 大学へ入ってから定期的に購読する雑誌が一つ増えた。高校の頃から当たり前の様にコンビニで買っていた月間バスケと、今も愛を注いでいるアイドルグループの情報誌。それに追加したファッション雑誌は、正直あんまり興味はないときたもんだ。なんで買っているのかと問われれば、嗜みのようなものだ。毎日私服で学校通ってみろ、嫌でも着こなし覚えるっつーの。高尾は豪快に笑うだけだ。
そのメンズファッション雑誌の特集ページに載っていたとある記事が、俺の頭を離れないままでいる。
「お前さぁ、なんで俺と手ぇ繋ぎたがんの」
「え、それ今更聞いちゃうんすか」
 好きだからに決まってるじゃないですか。鋭い目つきが見上げてくると、何も言えなくなる。それって普通恋人になるのが当たり前なんじゃないのとか、思ったりもするけれどもう聞かないことにした。
手を繋いで、身体も繋げて?
ここで問題です、恋人と美しき上下関係の違いはなんでしょう?
誰か俺に教えてくれよ。

(後輩だったやつと友達以上恋人未満とか、笑えねぇ)
 青春を捧げたあの頃の親しき友人達に相談をしてみようかとも思って、何度かアドレス帳に載っている11ケタの電話番号を通話画面まで持ってきたけれど、その後の発信音を流した事はない。大学に上がって、自分ですらこんなにも追われている。それなのにこんな理由であの二人の時間を裂く事も、何だか嫌だった。
「ねーね、宮地さん、今日遊びに行ってもいいですか?」
「嫌だっつっても来るだろお前」
「うっす」
うっすじゃねーんだよ、そんな軽いノリでお前は毎回俺を抱くんじゃねーよ。それでも絡まったままの手は、離れる事はなかった。人気の少ない道を敢えて選びながら、ようやく辿りついた愛しき自宅。一人で暮らすにはそこそこ満足していたアパートに、高尾はこうして転がり込んでくる事が多い。
気づけば洗面所に歯ブラシが2本あって、最近遊びに来た友人達にこのリア充がと散々発狂された。男のもんだって言うタイミングを逃して結局そのまんま。おかげで大学で俺はリア充とやらの仲間入りを果たしている事になっている。
「そういやね宮地さん、会いたがってましたよ」
 真ちゃんが!
 今日一番の笑顔を見せられた事への嫉妬か、喜びの同調か。自分にもわからないその靄に、ごまかしをかけたついでに笑って返した。受験生になってもクラスが一緒らしい部活の後輩二人組は、まさに運命で結ばれているのかもしれない。それでも、心から笑う事ができなかった。
「そういえば宮地さんの携帯のアドレス帳って、俺と真ちゃんだけグループ囲ってますよね」
 ひたり、嫌な汗が額から頬を流れやしないかと、体を強ばらせた。そんなこちらの異変に気付かなかった様で、高尾は何気もなしにいつものからっとした笑顔で宮地の腕を引いて部屋へ進んでいく。自分の家でもないくせに、こうも堂々と歩くのだ。そしてそれに何も言わず許しているのは、俺が許す立場にあるから。
「・・・高尾、お前また・・・」
「すんません、だって宮地さん寝てる時に真ちゃんからメール来てたんで気になっちゃって」
「本文まで見たのかよ!?」
「見てませんよ!?流石にそこまでしないですってぇ」
 “今の高尾なら”やりかねない行動だった。
 付き合ってもいない関係の中で、たまに行われているこっちの私生活チェックを、俺は密かに恐れていた。送信者が一発で表示されるスマートフォンの短所が露呈した。寝ている隙に見られてしまっては拒絶の仕様がない。
 ホーム画面にロックをかけようとしてやめたのは、前にそれをしていつもニコニコ笑っている高尾の顔が、一瞬で凍てついた事があったからだった。その日の夜は散々身体の中を暴かれて、失神してしまう位に激しく愛を求められた。
(こんな筈じゃなかったのに)
 先日送られてきたであろうメール、送信者の名前、件名、本文。律儀にも本文の冒頭は改行で画面表示されないようになっている。携帯だとかに興味なさそうだったあいつが、そこまで気にしている。
「高尾」
「はい
「俺さ、お前らのこと案外可愛い後輩だとか思ってるわけよ」
 いきなりどうしたんすか、そう笑いながら、どこか照れた顔をしながら首筋に顔を埋められ小さく声を上げた。だからさ、あいつは悪くないんだって。そこまで言ってしまうと、全てが崩れてしまうことが見えている。

終わりたくなかった。この馬鹿みたいな感情でも、十分名前を付ける事が出来た。
俺の供述はこれで終わり、これ以上もこれ以下も何もない。
甘えたのも俺、引き起こしたのも俺。それなら悪いのも俺。悲しきかな、俺にとってはどちらも可愛い後輩に変わりはなかった。だからこそ引き金はこうも簡単に引かれてしまったんだろう。



「ん・・・」
 隣で静かに寝息を立てて眠っている高尾を見て、ふっと顔が綻んだ。俺より小さいくせに、ちゃっかり俺の頭を引き寄せようとしているその手が健気で、健気で、胸が締め付けられた。
 サイレントになっていたスマートフォンの新着ランプが緑に光った。高尾ともうひとり、その色が知らせる相手がいる。起こさないようにゆっくり腕を伸ばして、画面を見る。

8/10 02:06
From:緑間 真太郎
Sub:Re;
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高尾からメールがありました
最近宮地さんの家に泊まりに行く事が多いと言っていました
あまりあいつを甘やかさない様にして下さい

次はいつ会えるでしょうか


「次」
 ぼんやりする頭でスケジュールを開いて、予定が入っていない日を漁る。飲み会・高尾・飲み会・サークル・高尾・飲み会。似たようなテーマが続いてしばらく、何も書かれていない場所を見つけた。
 もう随分前だったと思う。この二人が受験生になって間もなく、久しぶりに再会した時のたった1度、真太郎と名前を呼んだその日、宮地清志という男は愛おしき後輩の一人と恋仲になった。
 散々わがままを聞いてきた。冗談が通じない性格なのも、そういう類が下手くそなのも知っていた。最初は興味というものであり、そのまま続いてきた関係の中で、芽生えたのも恋慕だった。晴れて両思いこれでハッピーエンド、物語は終わり。そう簡単にはいかなかったのだ。
 緑間と恋人同士になる数週間前、俺は高尾に抱かれていた。ずるずる流れた時間軸を戻さないまま、今もこうして二人を壊さないように、そうして自分も愛されるように関係を結んできた。バカみてぇだと口元を歪めて笑ってしまうのは、所詮は自分を愛して欲しいという思いが最も優先されているという事実をわかっているからだろう。
 恋愛対象が自分と同じ男だと気づいたのは、それなりに青春をしていた学生時代だった。アイドルは所謂理想というものだったらしい俺は、自分が愛されたい立場にある事に突然気付いてしまった。
 しまったと思ったのは、そんな自分を慕ってくれていた二人の視線に、尊敬とは違う別の熱が篭っていることに気づいてから。そして、どちらも選ぶことができないまま、俺は崖っぷちの愛を掴んだ。
「高尾、俺おまえに、隠し事してる」
 お前も好きだし、緑間も好きだよ。相変わらず寝息を立てているその無垢な表情を見つめて、ぽつり呟いた言葉は宙に消える。ふと画面に目を戻し、一週間後くらいなら空いてると返信をした。
 後ろでうっすら目を開けてこちらを見ていた鷹の目に気付くことのないまま、送信完了の文字を確認した。

 本当は、もっと前に壊れていた方が良かったのかもしれない。そんな馬鹿げた事を考える程には気が動転していた。突きつけられたその画像は、脅しになるには十分の素材だったのだから。
 久しぶりに顔を合わせた高尾の相棒は、それはそれはご機嫌そうだった。お前そんな顔出来んのかと問えば、今日はとても気分がいいのだよと返してくる。若干の気色の悪さも無かったことにして、二人で会う時に使うと決めているシックなカフェの、決まった席に腰掛けた宮地に、静かに微笑んでいた緑間が携帯を翳して来た。
 真っ暗な画面に映るのは自分の顔で、何を訴えようとしているのかまったく理解できずにお前ふざけんなと口元を引きつらせると、緑間の指先が画面を一度タッチする。みどりま、と、その後に呟こうとした言葉が出てこなかった。

―――1つのムービー。
見覚えのある黒い髪がぱさりと揺れ、その体で少しだけ見えないが、確かに誰かわかる蜂蜜色が、そこにいる。
『か、ずっ、和成、も、っと、』
少し遠くから録画されているその画質は決して良いとは言えないものだが、声だけは鮮明に再生される。店内の隅っこ、響くのは間違えるはずもない高尾の声と、彼を呼ぶ自分のみっともなく上ずった声。
 完全に冷え切った手で、携帯を無理やり奪い取って消音にした。向い合わせに座っている緑間の顔は至って綺麗で、笑すら浮かべたまま。今度こそぞっとした。
 ばれてしまった。一番起きてはいけない展開になってしまった。俺のせいで。俺が曖昧なばかりに。焦っている脳裏に最初に訪れた危惧は、意外にも自分の事でなく今頃ストバスをしてるか夏休み講習を受けているかの高尾の心配だった。
 すがりつくように震える手で、テーブルをはさんだ緑間の腕を握る。ごめん、たったそれだけ呟けば、緑間は少し表情を戻した後ため息をついた。眼鏡をくいと上げて、手元にあったままの携帯を静かに掴んでバッグへ戻す流れを、高尾いっぱいの頭でなんとなく見つめる。
「高尾には、言わないで」
「それはおかしな話なのだよ」
 浮気されたのは俺なのでは。違う、つい放ってしまった否定の言葉に、ようやく緑間の不気味だった笑顔が消え去った。
「宮地さん、俺はそこまで出来た人間にはまだなれていません」
 だからこの事を高尾に話す権利もあります。アホみたいな話だけれど、それだけはだめだと首を振って懇願した。昔あんなに叱りつけていた後輩に、嫌々と子供のように頭を振ってひたすら考え直してくれと願った。だって、壊れてしまう。俺が好きだったこいつらの関係が、相棒という関係が俺のせいで。
 にた、と妙な笑みに変えてきた緑間が、それなら提案を出しましょうと席を立った。宮地のとなりまで寄って来て、耳元でその言葉を呪文のように囁いて、宮地の返事を待つ事もなく紙切れと、お金を置いて一人店を後にした。
 こんなはずじゃなかったのに。
 こうなる事くらい判っていたくせに。擁護する声と、批難する声両方が胸の奥から聞こえてくる。
とりあえず、高尾に暫く会えない事を伝えよう。これでいい。これで、責められるのは俺だけで終わるはずだ。握り締めた携帯は、かすかに震えていた。なさけねーとぼやいた声も、消えるようなものだった。

それから数週間、宮地は大学へ顔を出す事が少なくなった。


 次に宮地が高尾を顔を合わせたのは、高尾から半ば強制的に取り付けられた約束での事だった。部屋に訪れた高尾がその目を大きく見開いたのも無理はなく、つい数週間前に見た綺麗な顔には痣があり、しかも髪や絆創膏でうまく隠れる程度のものが散らばっていた。上がれば、無機質な声を無視して、腕を引っ張ってベッドへ放り投げるようにした。長身の体はさすがに抱き上げる事はできないが、それでもバスケをしている身。抵抗する気の見えない宮地の体は、まるで空気のように簡単にシーツへ投げ出された。
 念のため逃げないように、両手をそれぞれ絡ませながら宮地の顔横辺りまで持っていった。投げた衝撃ではだけたVネックが、男としては白い肩を顕にした。それをみて再びぐ、と硬直したのは、まったく覚えのない青あざが大きくそこを主張していたからである。
 宮地サン、何度名前を呼んでも瞳が合う事はない。一体誰にやられたんすか、返答はない。ち、と軽く舌打ちをした時に大きく震えたその肩を少し強めに押さえつけ、強制的に顔をこちらに向けた。見ているだけでも痛々しいその打ち痣をゆっくり撫でる。
「誰にやられたんすか、言ってください」
見つけ出してぶん殴ってきますんで。そう言ってはい緑間ですと答える程馬鹿ではなかった。脚も腕も、体中が痛くて、ここ数週間大学にすら行けなかった。心配した友人数名が、レポート用にまとめてくれたノートを持ってきてくれた時は流石に泣きそうになった。顔を見せるわけには行かなくて、インターホン越しにだけ会話を交わした。
なんとか単位を計算しつつ、自分の犯してしまった事を解決する策を模索してみたのだが、結局それは見つからないままでいる。定期的に顔を見合わせていた緑間に、こうして殴られる事も少なくなかった。
大坪に言ったらきっと緑間を本気で殴るだろうな。木村はここ最近獲れた中で一番のパイナップル投げつけるかもしんない。高尾は―――。
最後にたどり着くのは必ず高尾だった。会わなくなってからというものの、寂しさの中に灯された存在は高尾一人である。そこに、恋慕していたはずのもう一人の後輩は居なかった。いっそのこと、高尾にバレてしまっても構わない。だからもうやめてくれ。そう頼み込んでは殴られ、その時の緑間の顔は酷く苦痛に歪んでいた。
懐かしいあの頃ならば、先輩の威厳をーなんて言えたんだろうが、もうそんな関係ではなくなってしまっていた。すると、それまで隠し通そうとしていた事がどうでも良くなってしまって、とんと高尾を受け入れる余裕を作り上げた。
正確に言えば、空いていない余裕と予定を、なんとかこじあけたと言う所だ。実際、今後のスケジュールも緑間で埋まっていたのだから。緑間にも高尾にも、確かに恋していた。それでも、その愛に確かな答えが欲しくなって、その答えを言葉と体全体で表現してくれたのは高尾だった。ただ、それだけの話だった。
「宮地さん、辛かったでしょ?」
 ごめんね。その一言で、宮地はようやく自分のした事への最大の懺悔と、高尾への思いが溢れ出した。ぼろぼろと溢れる涙は、止まりそうにもない。たかお、たかお。ひたすら名前を呼ぶと、はい、高尾ちゃんですよと懐かしい反応が帰ってきて、昔に戻れたような気がした。高尾の、謝罪の真意を知るその瞬間までは。
 ちゅ、と重なり合った唇は温かい。暫く触れるだけだったそれが、徐々に舌の絡むものになっていく。ふぁ、と声を漏らして、もっとと強請るように頬をすり寄せた。
 なぁ高尾、俺、あいつと仲良くしていたお前の事が大好きだったんだよ。今更おせーだろうけど、ほんとだよ。
「ねぇ宮地さん、どうして欲しい?」
「ん、ぅ・・・あ、う!」
「あは、もうぐずぐず。なんでだろ」
 どこの相棒にやられたんすか?あまりにも自然な流れでこぼされたその死刑宣告に、燻り始めていた熱が一気に引きそうになった。しかし、そんな宮地の意識を知ってか知らずか、高尾は表情を変えない状態で宮地の服を脱がし始める。

「胸糞悪いっすわ、ほんと」



「あーーっ、あーッ、た、かお、おく、奥っ、ぁう、っン、ふ」
 一番きもちいい所を容赦なく抉られて、だらしなく声を上げた。薄い壁を通り越して隣に聞こえないように、高尾の肩を思い切り噛むと、一瞬その痛みで顔が歪んだ。190cmを超えている男を、本能に任せて抱き潰す。ぐちゃぐちゃになった顔に何度もキスを落としてきては、ずんと腰を深く押し付けてくる。ぼろぼろと溢れる涙を舌先で掬い取られて、ひうと喉を鳴らした。
「あんたは俺のでしょ?ねぇ、こっち見てよ宮地さん」

こっち見ろよ、耳元で囁かれそのまま性器をゆっくり引き抜かれる。浅い場所をわざとらしく先端だけで行き来されて、迫っていた絶頂感がもどかしく体の中に留まってしまった。その熱が徐々に燻り、ぐるぐる視界が回る。
「自分でも、分からなかったんですよね?俺の事が好きなのか」
 あいつが好きなのか。いつもの雰囲気でそう聞いてくる声とは裏腹に、その口元は一切の笑みを含んでいない。こんな高尾を見た事がない。肌に触れるシーツが酷く非情な物に思えてたまらなかった。
「俺、知ってましたよ?宮地さんと真ちゃんが、そういう関係だったの」
 きっと、本気を出せば今すぐにでもここから逃げ出していける。それをしなかったのは、隠し事がバレてしまった事への罪悪感と、高尾への弁解を求める無意識の心情がわだかまりとして残っているから。
「俺に抱かれながら、あいつにも抱かれたんですよね?ねぇ、宮地さん」
 誰のことを言ってるの、こっちから問い質したくなるような、逃げ道を欲してしまうような追求だった。真ちゃんだとか緑間だとか、あの頃からイラっとするほどに聞いていたその呼び名が、今日はまったく紡がれない。
 あいつって誰だよ、お前にとってのあいつはあいつじゃなくて緑間だろ、そう言いたかったけれど、その冷めた瞳と見つめ合ってしまって、声を出す事すらできなくなって、情けない。
「!〜〜ぁっ、あぅっぁやだ、高尾、やめ、」
 ぐぐ、と腰を思い切り抱え上げられ、ぴったりと高尾の肌の温度が重なった。臀部に触れる茂みの感触がむずがゆく、少し腰を動かせば、狙っていたように前立腺だけを狙ってそのそそり立った性器で闇雲に擦り始める。悲鳴に近い嬌声は、自分から出るものとは思えないような甲高いものばかり。
 じゅぽじゅぽと水音が響き、その度に耳元を塞ぎたくなった。ついでに目も閉じてしまおうとしたけれど、暗くなった視界の裏側に緑間の影が差し込んで、不安に襲われそうになって辞めた。
「きよさん、きよさん・・・っ」
「ひ、んッ あ、かぅ、かず、なり、ィ、ん、あッ!も、だめ、いッ・・・」
「ん、いいですよ・・・一緒に、っ、 !」
「うン、和成、和成ッ、ふ、あ!?あ、ぁぁああぁ〜〜〜ッ・・・!!!」
 肌と肌がぶつかり合う音を聞きながら、ひたすら声を上げた。最奥にねじ込まれた衝撃で、絶頂感が一気にせり上がって視界がチカチカし始めた。それからはあっという間で、アザと付けられたばかりの赤い花弁だらけの身体を大きくしならせ、熱い体液を自分の腹にこぼした。それと同時に内襞に注がれた熱いものが勢いよく宮地を蹂躙する。あ、う、ぁと譫言を呟きながら、高尾を引き寄せる。
 高い位置にあった腰のおかげで、射精した際に溢れた精液が綺麗な蜂蜜の髪と顔を汚した。それでも、そんな事も気にせずぼうとした頭を一生懸命働かせる。
「!ッあ、ぁ!?やだったかお、まだ、またっい・・ッ!!」
 終えたかと思った行為はどうやら思い過ごしだったらしく、こぽ、とついさっき出されたばかりの高尾の精液が溢れる後孔に、再び欲を取り戻した性器が蓋をする。ぬかるみきったその内壁を制止の言葉虚しく抜き差しされ、宮地は口元から飲み込みきれない唾液をこぼした。
「絶対渡さない」

その日静かに生まれた内緒の話は、ざあざあと降っている雨音に紛れながらすとんと胸の奥にしまい込む。明日もきっと雨が降る。太陽が見える日は、もうきっと来ない。それでも、と泣き喚きながら背中を震わせる高尾の背中をさすった、俺は結局こっちの蝶結を掴んだままだ。
「宮地さん、俺と緑間、どっちが好きですか」


 どっちもだった、どっちもだったんだよ。そう呟こうとした口元は、緊張で冷たくなった唇に塞がれ密やかに飲み込まされた。
 きっともう元には戻らない。ちぎれた赤い糸は、高尾が無理やり結びなおすんだろう。


Fin.

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