媚酒の宴 | ナノ


自らの口から言うことではないのかもしれないが、幼少期はとても裕福かつ自由に過ごした記憶しかない。父は小国なりとも頂点を統べる王であったし、自分に生を与えた母はとても外貌が良く街の人間には評判が宜しかったようだ。しかしその評判というものは至って表柄の譫言に過ぎず、生まれがごくごく在り来たりの母は影では外貌のみで王に取り入った大馬鹿者などと貶されていたりもしたらしい。本人はそれをわかっていたものの何も返さず只毎日を生きていた。そんなある日母が見た光景はあまりに残酷で、それでも子である自分に笑顔で取り繕っていたあの姿は今思い出しても痛ましい。忘れる事なかれ彼は「国王」、正妻のみとの情愛は許されず子孫や後継者諸々から愛人と呼ばれるべき者は両手で数え切れないほどに存在していた。母もそれは承知していたはずだが実際どうであろう、自分の生涯を捧げようとした相手がほかの女性を抱いている光景はなんと胸の裂ける行為だろう。

ああかわいそうに、幼いシンドバッドはそれだけ思い涙ぐむ彼女の背中をゆっくり撫で、部屋に戻った。あとあと考えてみれば自分は確かに彼女の息子だ、しかしその事実は彼の息子でもあるのだからシンドバッドがその血を一切継がないわけがない。幼いころからシンドバッドの美貌は周囲に一目置かれていたし、その眉麗な顔立ちは成長してなお磨きを増すばかりだった。
(気づけば女性から行為を求めてきていたし、それに嫌悪を抱いたことはなかった)

自分の筆おろしをしたのは見ず知らずの女性だった。その日は王宮の剣術授業が酷く退屈で、監視役の目を盗み静かに夜の街へ繰り出した。その時にシンドバッドに声をかけたのは後に知ったが彼より3,4歳年上の女性で、彼女が経営している娼館へと案内されそのまま情事に耽った。豊満な胸、脳が痺れるように甘い香水、きゅうきゅうと自分をほしがる肉襞。いかんせんまだ幼かったシンドバッドはその快楽に飲み込まれ、あっという間にセックスの虜になってしまった。それも運が良く周囲に行為を抱かれやすかった彼はそのような事で不満を持ったことがない。結局は自分の全てを愛してくれる存在が欲しかったのだと思う。
今までに大きな過ちを2回程起こしてしまったことがある。初めての失敗はその筆おろし後間もなく出会った自分より2歳ほど齢下の可愛らしい女性だった。慣れない酒に酔い切った勢いで流れた行為に気づいたのは朝方の温もりで、しかも最中の記憶が全くないというのはさすがに嫌な汗が伝った。そこで終わればよかったはずの酒癖が何故か自分の中で更に芽吹いてしまい、2度目の過ちが訪れる。その時はまさに修羅場で、シンドバッドが人生で初めて他人に頬を殴られた日であった。

仏の顔も三度まで。東の国の「諺」というものらしいがその文章を聞いたときにへらへら笑って済ませてしまった俺はきっと若かったのだ。そう、若かったのだ。だから3度目の過ちを懲りることなく犯してしまう、これから。

(やられた)

七海連合を終えたばかりのシンドバッドの額にはうっすら脂汗が浮かんでいた。通例ならばある程度期限が決まった時期に行われる会合が今日突発的に開かれたのはエリオハプト長官の来訪から始まった。珍しく何の通達もなしにシンドリアへ訪れたとエリオハプト・アルテミュラ外交長官の二人が運んできたのは両国の気候を生かした環境でのみ収穫できる果実酒で、品評会という名目で小さな宴をとのことだった。今日くらいはいいだろうと眉を潜めるジャーファルをなんとかなだめ行われた酒宴は普段より質素なものだがとても充実したものだった。その数時間後、このような発作が止まらずシンドバッドの体に熱を帯びさせている。ここのところお堅い政務官に命じられていた禁酒のおかげで酔いの回り方が早いだけかと思っていた矢先急激に呼吸が荒くなった。国王としてどうかとは思うが来訪した二人をそのままにし部屋を後にしたが、どうにも原因がひとつしか見当たらない。
「は・・ぁ・・っ何か怒らせるようなことでもしたか・・・?」
この熱が冷めたときに槍を入れてやろうと考えなんとか部屋の寝台へ伏せる。歩くこともままならないその淫薬、生まれて初めて味わったものでは決してないのだが如何せんこれまで味わったものとは格が違う。迷宮攻略者シンドバッドともなると、冒険の途中に立ち寄る街で娼婦たちに誘われることは極めて当たり前だ。自分と絶対的な関係を持たせようと孕む事を目的とした女性もいたため、いつのまにかシンドバッドはそのような薬に耐性がついていたらしい。そんな自分ですらここまで効果が出るということはきっと通常の果実酒にさらに何らかの薬草を煎じたのだろう。
カーテンの外はまだ太陽がシンドリアを照らしている。風を取り入れてみても欲求は消えることなく増してとうとう理性との一線の戦いになってしまった時、シンドバッドの持つ小さな悪運が彼を笑うかのように訪れる。
「シンドバッド王?いかがなさいましたか」
「・・・っああ、ちょっと優れなくてな・・・申し訳ないが外交長官殿達はそのまま宴を続けさせておいてくれないか」
「それは大変です!水差しでもお運びいたしましょうか?」
「いや・・・っは、悪いがしばらく人払いをしておいて欲しいんだ。できれば男の・・・そう、だな、マスルールでもいい」
「いいえ、いけません。体調の悪い時に王を一人にさせては他の方に叱られてしまいますわ!申し訳ありませんが王よ、失礼致します」
「!?」

しまったと思った時には遅く、見かけない顔の女官がずかずかと部屋の中へ足を踏み入れぎょっとした。どうやら街から通っている女官らしく、まだ宮殿内の区間を理解していないようだ。本来シンドバッドの部屋がある紫獅塔は通常の文官・武官・食客達は容易に通ることは許されていない。ジャーファルやシャルルカンなど八人将他、毎朝シンドバッドの起床を促す決められた女官以外がここまでくるには、紫獅塔前に立っているヒナホホとドラコーンに目通しの許可を得なければいけない。そんな彼女がいともたやすくここに来ているということは、まったく理解できない。
二人の不在と彼女の無知さがちょうど良く重なってしまったが故の誤算だった。
女官はシンドバッドの抵抗を気にするようもない気丈かつ大人びた様子でシンドバッドの汗を拭い、それこそまるでジャーファルのように身の回りのことをこなしてゆく。きっと街ではかなり働き者だったのだろうが、今の状態では褒める気にはなれない。そうこうしている間にもシンの身体は欲を孕み始め、意識を持って熱を放出したがっている。若気の至りを犯した時、ジャーファルがまたかというような顔で額を小突いてきた。段々と脳までもが媚薬で犯されて、
ぼうとした頭で側に寄る女官の腕を思い切り自分へ引き上げる。きゃっと甲高い声が耳に響いても抑制が効かず、驚いたような女官の目を見つめるシンの金色の眼は目の前の女性しか映していない。
「お、王・・・・?」
「ああ、・・・柔らかい肌だな、っは・・・可愛い顔をしているね、お嬢さん」
「シンドバッド王!?嫌、やめてください」

抵抗する女官の怯えたような顔に妙な嗜虐心が芽生え、きっちり着こなした官服に手を滑り込ませようとした矢先首元にぎらりと鋭利な刃が揺らめいた。随分積極的なお嬢さんだと笑えば先程までの華やかな笑みが淫靡になり、武器を持たない滑らかな手のひらがつうと首元をなぞる。こういう時に限って自分は薬が回り、護衛をするべき者が近くにいやしない。
「っは・・・よく考えてみれば、外交長官殿が俺に・・・酒を渡す前にたしか検品をしたはずだ」
「ええ、わたくしめが毒見をさせていただきましたわ、麗しきシンドバッド王」
「手荒な真似をする・・・っ新しい女官の君が薬まで使ってなにをしようというんだ」
「シンドバッド王、私はここの生まれではありません。ここより少し離れた小さな国の貧民ですの」
娼館での生活には飽き飽きで、家も裕福ではありません。それならば私を仕えてくださる美しいお方の妃になってしまえば今より幸せに生きていけるのです。いともたやすく放たれるその下賎さに抵抗をしようとするも首にあてられた武器と媚薬がシンドバッドの正気を削ってゆく。ジャーファルの時は幼い体を組み換えすのは簡単だったものの、女性といえども成人をした者となればそう簡単に反転はできない。
攻撃はしてくる様子もないがきっと動けば殺してしまおうという寸断だ。どうにもならない状態の中女官がシンドバッドに口付け、先程味わった酒に似た苦みを帯びる液体を嚥下させられる。

「ふふ・・・シンドバッド様、どうか私の子に、貴方の精を分け与えてくださいまし」

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「あれ?マスルール、どうしたのそんな慌てて」

普段如何なる時でも焦る姿を見せない彼が、やはり顔には出さないもののそわそわと廊下を歩いて辺りを見渡している。横にはヤムライハも一緒のようだ。外交長官殿が訪れてシンドバッドは宴に出ている、仕事もある程度終えた事だしと様子を伺いに来たジャーファルに、ヤムライハが困惑した表情を向ける。
「ジャーファルさん、その・・・王が見当たらないんです」
「シン様が?え、シン様なら外交長官様たちとお話していないかった?久しぶりにお酒を解禁したからすごく喜んでいたけれど」
「いないです。外交長官二方に聞けば体調が優れないと言っていなくなったきり・・・と」
「え・・・?宴のはじめはなんともなかったんだけど・・・ごめん、ちょっと部屋の方確認してくるね。二人もわざわざありがとう」
「いえ、あの・・」
「どうしたのヤムライハ」
少し不穏なルフの感覚がするんです、と眉を下げて心配そうに話すヤムライハを見て安心させるように肩を撫でる。宮殿内で妙な空気がするということは即ち彼女の結界が効果を成していなかったということになる。彼女の防御魔法は天才魔導士の腕を駆使した最高傑作といってもいい程の出来なのだ(今まで幾度も侵入しようとした者がいるが通過できたのは認めたくないもののジュダルのみだった)ジャーファルにはルフ鳥は見えないが、それまでの生活柄人間を纏う空気でその相手がどういった存在なのか程度の把握はできる。先刻まで笑っていた姿を思い返せば酒の検品でなにか問題があったに違いない。急がないと、と焦る気持ちを押し込め紫獅塔へと走り出す。

紫獅塔に近づくほどに人の気配が薄れ始める。シンドリア宮殿で最も神聖な場所と言われている紫獅塔を通過するには八人将以外は武官の許可を得なければいけない。扉の前にはヒナホホとドラコーンの二人が立っている。
「ドラコーン殿、ヒナホホ殿」
「おおジャーファル、どうかしたのかそんなに急いで」
「シンが酒宴にいないのです。体調が崩れたと言って不在にしたようなのですがこちらに来てはいませんか」
「うーん・・・来てないなぁ?ドラコーンも俺もさっき5分ほどここを不在にしたが何も・・・」
「5分?何かあったんですか」
「いや、さっき宮殿に見かけない女性が訪問してきたんだ。街の者だとは言うが正確な通過理由が無かったから返し・・・ジャーファル?」
「・・・まずい」

(薬草の香りがする、)
暗殺をしていた頃少しだけ嗅いだ事のある香りが鼻をかすめている。くん、と空気を取り入れるとシンドバッドの部屋から薬草の混じった香炉がかすかに風に乗りこちらまできている。仕事が溜まっていてもあの場を離れるべきじゃなかった。ち、と軽く舌打ちをしてヒナホホたちの居る紫獅塔門を後にする。ここ数日シンドリア城下で発祥先未明の薬草の売買が行われていたらしい。大きな被害となっていなかったため重要書類が終わり次第シンドバッドに念のため報告をと思っていたことが仇となってしまった。ジャーファルの調べた限り眩暈を引き起こしそうなその薬草は確か暗殺の世界でも使われるものだった。しかし使用する用途は限られていて、主に寝台で首を獲る時・つまり情交最中の油断しているときを簡単に殺すために都合の良い催淫性のあるものだったという記憶がある。

最悪の事態も視野に入れておかなければとシンドバッドの寝室前に立ち、中の様子を伺う。鼻をくすぐる香りは微々たるものながらジャーファルは既に視界が少し歪んでいた。普段は扉を2回叩くとジャーファルと決まっている。普通に2回では他のものと似てしまい紛らわしくなってしまうだろうと、初回は中指の関節でこつり。二回目は少し力を込めて手全体で叩くようにしていた。しかしながら状況的にシンドバッドの部屋には今、王以外の何かがいる。彼の部屋から溢れない光をみて決定打を打たれる。昼間の太陽が入らないように遮光しているカーテンが証拠であり、彼は日の昇る時刻に完全に光を遮断するようなことはしない。仕事途中の仮眠でもベッドについている天蓋カーテンを広げる程度だということは知っている。

本当は今すぐにでも部屋の扉を開けてしまいたい。しかし敵の存在を考えると無闇な突撃はジャーファルにはむいていないと判断し、込み上げる怒りをなんとか押し耐えた。ジャーファルの眷属器は紐で自由自在に操ることができるものの一度刺さってしまえばそう簡単に引き抜くことは出来ない。失敗は許されない欠点を見せるわけにはいかず、音を立てないように静かに扉の隙間をつくるように指を入れたジャーファルの耳元を淫靡な嬌声が犯した。
例えばこれが通常だとしよう。彼は一国の王であり、様々な嗜みを好んでいる。最も愛しているのは酒ではあるが、豊満な胸と美しい外貌を持ち合わせた女性達と睦言を交わすこともその一つなのだ。「孕ませることのないよう」にを絶対条件として定期的にシンドバッドの閨へは自主候補してきた女性を共にさせている。しかしその女性も彼のもとへ送る前にジャーファルがしっかり身の回りの確認をしてからのことだ。

(何度この胸を焼かせたことだろう、こんなにも好きになってしまっていたと思うともっと胸が焦げてしまう)

彼に対する感情がいつの間にか変わってしまっていたジャーファルは忠誠を貫くことを決めた。自分を救い出した人間に愛情を抱くなど下衆だと判断し、良くも悪くも頑固なジャーファルはその気持ちをひっそり胸に閉じた。それでも恋をした相手がほかの人間を抱くという行為に慣れたのはつい最近、彼が立派な国王になってからのことだった。

ジャーファルには今見えている光景が理解できず、そのまま下にしゃがみ込んでしまいそうだった。上衣をはだけた女性が男の上にまたがり腰をくねらせ喘いでいる。あんあんと鳴くその女性に容赦なく自分の欲を叩き込んでいる男は、紛れもない自分の主シンである。香炉を気にする間もなくその行為に驚いたジャーファルはとうとうその場に座り込んだ。情けない話になるかもしれないが、これまでも彼の行為は幾度か目にしたことがある。しかしその度ジャーファルは痛む心を抑えようと忘れる努力をしていた。その一生懸命組み続けた煉瓦が一瞬で崩壊してしまったような気がしてただ呆然と彼と女性の性交の声を脳内に響かせる。


(どうする?どうしよう)

薬草の香りを考えるときっと耐性の無い媚薬系に負けてしまったに違いない。たとえいかなる理由でも彼にはいつも閨事の前再三孕ませるなと注意していた事、彼のもとへ渡す女性は誰もがジャーファルの厳しい品定めを通過した、言い方は悪いが安全な者たちばかりだった。しかしこの状況を考えるとシンドバッドの上で汚らしい喘ぎ声を出しているのはどこからかの密偵か何かであり、つまり狙いはシンの子種なのだ。今までも無理やりに彼の子種をと企んだ者たちがいたもののシンドバッドもそれはしなかった。だが彼女の果てた声とあつい、という言葉を聞く限り最悪のパターンに陥ってしまっている。泣きそうな頬をばしんと叩き、いよいよジャーファルが扉を開ける。部屋の中はどこか蒸し暑く、カーテンが彼の部屋に送るシンドリアの風を封じているのだと気づいた。
シンドバッドの上に乗る女性は恍惚の表情をゆっくりこちらに向けながらずるりとシンドバッドの性器を自らの膣から引き抜く。こうなってしまっては致し方ないとなんとか冷静さを取り戻しジャーファルが武器を構えベッドに近づく。シーツではぼんやりと天井を見つめたシンドバッドが未だ息を荒げていて、ああどうしてこの人の側にいなかったのだろうと自分の首を締め付けたくなる。

「・・・・随分と好き勝手してくださったようですね、我が王に」
「ジャーファル様ではありませんの・・・・もう、あ・・・そんな顔をなさらないでください、私は王の子種をいただきたかっただけなのです」
そう言いながら再びシンの性器を取り込もうとする其処からこぷり、と白い精液が溢れる様子を見てジャーファルは大きく息を吐き女性の背中に武器を向ける。すると女官の衣装を投げ捨てていた女が色香纏う表情をジャーファルに見せた。
「もう遅いですわジャーファル様。シンドバッド王の精は私のこの胎内に注ぎ込まれましたの・・あぁ・・・はやくこの御方の子が見たい・・・」
「残念ですがそれは叶いませんよ」
「ジャーファル様、一体何をお考えです?まさか女官の私を殺すおつもりですか?」
まだ何か言おうとしている女の続きを遮断するかのように勢い良く鋭刃をその汗ばんだ背につきたてた。真っ赤な血が自らの体からあふれ出しているその姿に女が悲鳴を上げた。そのまま今度はゆっくり抜き取り、再び同じ部位に刃をずぷりと刺し込む。女越しに見えるシンドバッドはなんとか保つ意識をこちらに集中させ目を見開いている。(ああ、貴方にまで血が飛んでしまった)
「私があなたを只武官に引き渡すだけだとお思いでしたか?申し訳ありませんねぇ、そこまで寛容な心の持ち主ではありませんよ?それとももっと楽に死ぬ事を所望でしたか?」
ぐしゃりと抉れた背中を蹴り床へ落とせば、段々と体が動かなくなりつつある女へ更に先程の行為を繰り返す。甲高い喘ぎ声は先程の時間に消え行き、シンドバッドの部屋には女官だった者がひたすら謝罪を叫ぶ醜い声だけが響いていた。これだけ騒いでも誰もこない様子を見ると、きっと魔術室でヤムライハがこの部屋だけに特別なボルグを張っているのだろう。
「ゆ るし・・・じゃ、さ ・・・」
「ふふ、その汚い唇で私の名を呼ばないでくださいね?反吐が出る」
そのまま意識の気配がなくなったことを確認しベッドに横になるシンドバッドのもとへすぐさま駆け寄る。
----まだ媚薬効果が薄れていない 額に滲む汗と顰んだ眉に、荒いままの呼吸。そしてなにより怒張を見せるシンドバッドのそれは女性との行為後であろうにも関わらず未だ欲を放出したがりそそり立っていた。

「ジャー・・・ファ、ル」
「シン様!しっかりしてください、今ヤムライハを」
「いや、やめてくれ・・・頼む・・・ッピスティもだめ、だ・・・っは」

女性は絶対に入れるな、そう苦しそうな声で言うもののジャーファルが触れる手のひら一つにもびくりと体を震わせては外へ行くように促す。女一人殺した今更になって放置しろというのか、シーツにこぼれた女に注ぎ溢れた精液がどろりと膝にこびりつき顔を顰める。これからまだ仕事があったはずで、本来ならば既にジャーファルは新しい書類に手を付けていて良い頃合いだった。それでも我が主が苦痛に歪んでいる様子が落ち着く事をそのまま時に任せるわけにはいかない。シンドバッドの背中に手を入れ、少し上体を起こさせ勃起しきったままの性器をくぷりと口に含む。
「ッ・・・あ、ぁ」
「シン、さま・・・」
私で良ければどうぞ、そう言いながら小さな口でシンドバッドの性器をくわえ込み、片方の手で袋を柔く揉みしだけば普段の閨では聞いたことのない嬌声が室内を犯す。ぼう、とジャーファルの頭に熱が伝染し始めそのままじゅぽじゅぽと先走りと唾液の混じる音を聞きながらシンドバッドを限界に責め立てていく。一際甲高い声が上がるとジャーファルの口元からぶるりとシンの性器がこぼれ、精液がジャーファルの顔に飛び散った。
「ひんっ!?やぁ、シンなにして、」
「っは・・・ジャーファル、ジャーファル・・・ッすまない、」
「っあ・・・ァ、あっやだぁ・・・」
勢い良く反転した視界に映る天井と黒紫の長い髪の毛に目を見開いていると官服の中に熱を持った手のひらが侵入してくる。こんなはずじゃなかった、そもそもシンドバッドの最悪の事態は既にまぬがれたはずでジャーファルは少しでも彼の欲を発散できるならという意図で口淫を進んで行なった。それ以上の事は望んでいなかったし、何より今まで何度も閨を共にしてきたものの「最後」まで行われた夜は一度もないのだ。
「ひっ」
「ジャーファル、少し痛いと思うが我慢してくれ・・・」
「え、嫌、なに、シンいや、やだ、っああああ・・・!?」

骨ばった指がくちり、とシンの精液を潤滑油がわりにジャーファルの肛腔を探る。中に感じる違和感が酷く気持ち悪く呻けば使われていなかったもう片方の手で口元を抑えられる。その時一瞬見た王の歪んだ笑みが恐ろしく、反射的に逃げようとしたもののかけられた体重にどうすることもできない。
昔彼に聞かれたことがあった。お前はそういった事も仕事の一部として行なっていたのかと。暗殺と一言で言ってもその方法は多種多様、ジャーファルは武器を使った専ら有名な殺し方だが周りのものの中には毒を使う者もいた。そんな中でジャーファルが密かに自分にその番が回ってこないようにと願っていたのが売りというものだった。
売りは自らの体を武器にする暗殺の仕方で、相手に油断させなければいけないため多少時間がかかる。選ばれるのは非力な子供で、ジャーファルの場合は素早さが他の者より俊敏だった事と、外貌の雀斑を理由にその分野をまぬがれた。

---しかしそれを自分の武器とした者たちは酷く扱われていた。標的に愛でられるためにはそれ相応の美貌と閨での寝技というものを覚えなければ使い物にならない。大抵の子は標的の愛玩になる前に調教を受けその体を無理やり快楽に慣れさせるが、中には初心なまま駆り出される哀れなものもいた。

「俺はそっちの分野では役に立たないから教えられたことがないです。・・・だから知りません」
「・・・そうか」
その時安堵したような笑みを見せた彼の真意は掴めはしないが、安心してくれたのだと思いジャーファルもそれ以上何も返さなかった。
つまりジャーファルはそういった経験が全くない。だから簡単にこれから起きるであろう事を行える訳もなければ精神的な準備も出来ていない。それでも軽い抵抗で終えてしまったのは怖いと思いながらも自分を抱こうとしているのはあのシンドバッドだからだと思っているからである。
「っジャーファル・・・ほら、分かるか」
「あん、ぁ・・・や、なに・・・嫌、いや シン、シ、」
「俺の出したものがお前の中に入ってる。・・・こんなに厭らしい音を立てて」

ちゅぽん、と抜けた指で薄まった違和感が訪れ息を吐いたのも束の間、指の大きさだけ開いた孔がよく見えるように腰を思い切り上に上げられ先走りを出し始めた自身がジャーファルの方にしっかり向く形になり狼狽える。胸が圧迫されて少し苦しい。ベッドの上に立ち上がったシンの行動が全く掴めず混乱していると、シンドバッドが未だ萎えない性器を上下に擦り始める。あっという間に溢れ出た精液を、そのまま開いたジャーファルの肛腔にぱたりと落とせば背中をびくつかせたジャーファルが涙を零す。
「ひんッ、あ、いや・・・シン、それぇっや、やです・・!ひっ」
「さっきから嫌しか言ってないぞジャーファル」
無理やり潤んだ其処をまじまじ見つめたかと思えば、熱く柔らかい何かがくちくちとジャーファルの孔を撫で始める。その急激な快楽にびゅるると吐き出した自らの白濁はジャーファルの腹と顔にぱたりと弾き出された。部屋がひどく熱い。もしかしたら自分たちの体が暑いだけなのかもしれないが、そんなことも判別する気になれない。しばらく二人の荒い呼吸だけを耳にしていると、再び肛腔にシンの舌が宛てられる。
「!?シンん、やら、いや、きたないぃ・・・っ」
「ジャーファル、ずっとこうしたかったんだ・・・ジャーファル・・・っ」
熱に浮かされる中囁かれた言葉にまた目を見開く。自分は確かにシンドバッドと主従以上の関係を持ってはいたがそれは決して恋人という綺麗なものではなかった。はじまりは彼の酒だった。彼は今までに幾度か酒での過ちを起こしているが、つまり自分との切欠が酒のせいではなかったのだとしたら。うぬぼれそうになる心をなんとか保てば返答のなかった事が不満だったのか荒い呼吸のまま更に奥へと舌を突き入れられてジャーファルは再び射精した。
顔や腹は既に自分のもので白くべたつき気持ちが悪い。ちらりとシンドバッドを見れば最初の頃より薬は切れてきているようだが相変わらずその顔は獰猛で、ぞくりと瞳が揺れる。

「ジャーファル、ジャーファル愛してる・・・っ」
「あぁぁっぁ、あああ!ぁひ、・・・」
舌よりも長大なものが熱を孕んでジャーファルに思い切り突き入れられて悲鳴を上げる。抵抗する間もなく揺すぶられた腰が痛み、異物を受け入れたことのなかった其処に貫かれた衝撃が凄まじくジャーファルは意識を飛ばそうとする。しかしごりごりと侵入してくるシンドバッドにそれを拒否されてただひたすら己の声とは思えないそれを聴き続けた。
「あ、あっあっ、あぁ、ぁ・・・や、シン、んん、ぅっ」
「気持ちいいかジャーファル?」
「痛、いた・・・くぅ、あんっ」
必死に押しのけようとする腕を力ずくで頭上で拘束され、快楽を叩き込まれる。挿入されては思い切り奥を貪られ、感じたことのない内側からの感覚に薄くなり始めた精液を噴き出した。朦朧とする意識の中再び掴まれた腰は既に力が入らず、くたりとしたジャーファルを今度は四つん這いにさせ栓をするかのように奥へ奥へと押し上げる。愛していると繰り返される言葉がまるで死刑宣告のように聞こえていた。

「もういやぁ、やで、すシン、ひぎぃ、ッあついいい、あつい・・・」
何度も射精された後孔は白く泡立ち、精液だったものは少し固まり始めている。それでもシンドバッドは腰を引こうとせず、ぎりぎりまで性器を取り出しては思いきりジャーファルの体を引き寄せ快楽を教え込む。それを繰り返しているうちに段々とジャーファルの声が涸れ始め、次第に嬌声もシンの腰の動きにしか反応しなくなり始めた。
「あん、あ、ああ、あっぁ・・・ん、ちゅ、は・・・っひ、」
「・・なんだか、は・・・っお前が盛られたような顔だなぁジャーファル・・」
「いやぁあ、ほしいの、シンの、くらさいぃ・・・ああ、あァぁ!!」
「シンの何が欲しいのかジャーファル、ちゃんと言わないとイカせてやらないぞ」
「シンの、シンの・・・ぉ・・・ぉちんちんくださ・・・っぁぁぁぁぁ・・・」

さてどうしたものかと意識の戻り始めたシンドバッドはぶちゅぶちゅとジャーファルを後ろから犯しながら考えていた。事の始終をなんとか思い出せば、一服盛られた自分はどうやら女官と致してしまったらしい。そしてその女官であったはずの人間が床下で息絶えていた。そんな中気にすることもなくひたすら犯していたのが昔から大事に育ててきたジャーファルだった時には何をしているのか訳がわからなかった。元々ジャーファルとの関係は従者と王以上になっていたが、決してこんな風に手を出したことなどなかった。大事に大事に愛してきたのだ。それがどういうわけか、自分の欲に負けてなのか今ジャーファルの後孔を淫乱な音を鳴らし責め立てている。

外を見れば夕日が沈む頃で、ああこれは長官殿も帰っただろうなとぼんやり思う。
覆いかぶさる自分の下で普段は絶対に言わないであろう卑猥な言葉で懇願している彼とはきっとだいぶ前から繋がっていたのだろう。証拠に彼にこびりついた精液らしきもの、焦点の合わない瞳、泣き腫らした跡、そして性器を抜けばぽっかり開いたまま戻らなくなった排泄器。
(薬で頭もやられてしまったんだろうか)
横に死体が転がって、愛しい相手は最早声にならない声で動きに合わせて鳴いている。それを見て可愛いと思ってしまうところそこら辺りに自分を形成していた捩子が飛んでしまっているのではないかと思ったが、シン、シンと自分の名前しか呼ばない政務官を目の前にして何も言う気にならなかった。

亀頭ぎりぎりまで引き抜いた自身をゆっくり挿入すればいやいやと首を振り更に愉悦を求めてきゅんと中を締めてくる。媚薬のきれかけたシンドバッドはもうそろそろ終わりだなと一人銘打ち、今までより速く腰をジャーファルに進める。
「やあぁぁ、あァ、んっシンんぱんぱんしないれぇ、おひり、こわれちゃ、ぁあああっ」
「っくそ・・・ジャーファル、これで終わりだ、しっかり飲み込めよ・・・?」
ごりり、と前立腺にペニスが触れたときジャーファルの体が大きくしなり襞がシンドバッドを押さえ込む。殆ど出ない精液ですら大事に奥へ誘おうとする孔は、そのまま性器をくわえ込んだままジャーファルを失神させた。

:::::::::::::::

「すまなかった」

「申し訳ありませんでした・・・」

次にお互いが顔を合わせたのはその日の星が瞬く時刻で、隣に感じるぬくもりに先に目を覚ましたシンドバッドがジャーファルを見て硬直した。何があったか決して忘れていないのだが、それが問題だった。夢だと思っていたのが事実ということになる。ジャーファルの身体には鬱血した花弁が散らばっている。最後にみた光景と違うところといえば女官の亡骸がないということで、つまりあのあと誰かが紫獅塔に入ってきたのだ。あの状態も見てしまったのだろうかと考えていると隣にあった気配が目覚めていたことに視線をずらし、そうして最初に放たれた互いの言葉が冒頭である。
「シン様、ごめんなさい。わたしは、わたしは貴方が少しでも楽になれるのならばと考えて・・」
「いや、お前は謝らなくてもいいだろう。謝るのは俺のほうだ、本当にすまないことをした・・・熱があるな、慣れないことをしたからだろうな」
いいえ、いいえと呟く声はガラガラで普段の通る声の政務官はどこにもいない。その声が更にシンドバッドの罪悪感を際立たせたもののジャーファルがすり寄ってでも今はこうさせてくださいと、それだけ言ってシンドバッドに体を寄せてきた行為に何も言えず、顔を赤くしながらジャーファルを抱きしめた。

「ジャーファル、こんな形で本当に俺は不甲斐ないよ。それでも俺はお前を抱いた。これでお前を手放さずとも良い完璧な理由ができた」
「なんですか・・・?」

俺の恋人になってください、敬語で言った言葉はしっかり伝わったのだろうか。しばらく黙ったあとにお酒はお控えくださいねとだけ返されたシンは素直に謝罪をしてジャーファルの額に口付けをした。




ついったで仲良くしていただいている村瀬さんからのリクエストでした!
おちんちんって言わせたかっただけです反省してません


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