来襲する星屑 | ナノ



夜が明ける数時間前に目を覚ませば、愛おしい人間のぬくもりが隣で微かに触れる。幾度も越えた星空の下、彼は必ずその瞼から綺麗な雫を零す。その光景を目の当たりにしては拭い、自分の歩んできた世界が果たして正当だったのか自問自答し始める。涙を流すのは大抵夜が更け、息をするこの空間の外は目眩が起きるほどの星たちであふれかえった頃だ。理由のわからないそれを問おうもきっとこいつは何も言わない。悪夢だの事実無根の既製を側石で造り上げては無理にその涙をなかったことにするのだろう。
(苦しいと言ってくれたらどれほど楽だろう)
俺もお前もいらないところまで強くなってしまったもんだと未だ溢れる涙を指で掬いとれば、少し擦り上げたせいか意識をこちらに戻してしまった彼の深く黒い瞳がこちらを捉えた。瞬くその眼は自分とその後ろを着飾る無数の命達しか映っていない。盲目なのだ、自分しか見えぬように狡く育ててきた。何も知らない彼が自分しか縋る術を知らぬようにと呪縛のようなそれを、こいつは何一つ嫌がりもしない。当たり前だ、その方法など教えていないのだから。
「シン・・・?」
「ジャーファル、まだ夜は長いぞ。ひと眠りしなさい」
「シンは?」
「俺はもう少しだけ星を見てからにするよ。おやすみ、ジャーファル」
「わたしもおきています・・・」
「じゃあ今日はお前の寝顔を見てから俺も夢を見るとしよう」
それじゃあ私は貴方のその長い睫毛が閉じる姿を見てから夢に浸ります、そう言い返されて眉をひそめた。ああ言えばこう言うこの性格は実は昔からのようで、出会ってまもなく彼の声を数度聞くようになった時から既にこうだった。幼い少年少女たちに対する態度などを見る限り彼は母性本能というものがあるようだ(本人にこのような事を言えば発言2秒後には武器が飛んでくるので胸の内に留めておく)
また元いた環境柄自分の感情への抑制がそれは上等で、長年付き添っている自分ですらジャーファルの考えることは6割がたしか把握できていないのだろうと思う。それでも、あの幼かった子供がああやって涙を流すことを覚えたことは大きな大きな成長を型どり、今の彼が存在する。

「ジャーファル、お前はどうにも多種な感情を引き出すことが苦手らしい、抑えることばかり長けてしまって俺はたまにお前が見えないよ」
「見えなくていいのです、あなたに私の全てが見えた時、きっと世界は終わるから」
「・・・何?どういうことだジャーファ・・・このやろう、俺よりあとに寝るって言ったのはお前だろジャーファル」
冗談ではなく本当に意識が夢の世界に旅立ったようで、すぅすぅと寝息を立てるそれを見つめ、彼の呟いた意味深な言葉をなんとか理解しようと努力する。
分かって欲しくないのだろう。自分の全てを知って欲しくないのだろう。それでも彼が愛おしい俺は、どうやっても彼を手放せないし隅々まで把握していたいと思う(確かな独占欲、)
(俺だけのものにしたいのに)
(俺はお前だけのものにはなれないから)
(どうして俺は王になろうと思ったのか 今となってはあやふやだ)
守りたい存在が大きかった。一人一人の命ではなく、その命たちがお互い共存しながら幸せに生きてゆける世界を作りたかった。数え切れないものを失った。それでもお前が迷う俺の道を示す導となり先を照らしてくれるのだから、きっと間違っていない。
「なあジャーファル どうかお前はたくさん泣いてたくさん笑ってくれ。それで俺はきっと報われる」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

時折自分は弱くなってしまったと思う。こうして雫を零せば、掬ってくれる貴方がいる。分かっているからこうして甘えてしまうのだろう。その温もりがいつまで隣に在ってくれるものなのか考えて心で小さく苦笑した。いつまでなど愚問である、そもそも温もりが与えられている時点で自分は出過ぎた寵愛を受けているのだから。
(それでも離したくない、貴方がいない夜は息が詰まるほど寂しい)
辛いと言ってくれたらどれほど良いのだろう。

夜な夜な夢に囚われる。与えられてはいけないそのぬくもりを掴もうとしては知らぬ者たちの手が無数に伸びてきてそれを拒む。そしてまるで王を守るかのようにこちらを見つめてくる瞳が訴えるのだ。触れるなと。お前は穢らしいと。幾度も越えた星空の下、自分の罪を戒めるそれに怯える少年が眼前にいる。幼い頃の自分が泣いている。事実有り得なかったはずの光景に当時は驚いたが今となっては冷静になったもので、最近はどうすれば泣き止んでくれるのか模索してみるものの何も得られない日々が続く。その世界にしゃがみこむ自分は見えぬ恐怖に怯え、拒絶ともいえる言葉を投げつける。手を差し伸べようとするときに必ずその蜃気楼が遠のき、気づけば涙をこぼした自分を現実で再び戒めることになるのだ。
「ねえシン、貴方が私の全てを理解するときは、あなたの夢が消え去るときです。私のこの汚らしい感情に気づけば最期、貴方の希望は朽ち果てる」
笑って欲しい。王となった貴方に恋をした一人の、いや、一匹の蛇の話を。どうか酒の肴にでもして思い切り笑って欲しい。過ぎた愛情を与えられもがき苦しみそれでも幸せだと思い生きていく哀れなその一話を、不味いと言いながらどうか千の夜をわたって欲しい。
「あなたが崩れる夢を見るのです、私を守ろうとする貴方は志半ばでその炎を消してしまう。どうか現実にならないでと幾度願いその世界を変えようとするのです」
でも私が貴方を愛する限り、私の我が儘はいずれ貴方を失脚させる。恋とは醜いものだ。この感情も彼に教わったというのだから笑えない。
「シン、貴方の重荷になりたくない、貴方がいついかなる時にでも、私を駒としてみて下さる事が貴方の夢を掴み取る光に成りうるのに」
どうして私はあなたに恋をしたのでしょう。
横で寝息を立てる王の月に輝く紫色の髪をゆっくり手で梳く。自分とは違う絡まることないその細いそれを見てなぜだろう、やはりこの人は自分とは違うのだと思った反面これでいいのだと思った。
同じではいけない。下にいなければ私の意味がない。
「もし私が道を違えた時、貴方の命令に背いたときはどうか、どうかその大きな決意で私を葬ってください」
そして来襲する星屑に願わくば、愛しい貴方へ送る最後の告白を。
涙をながすのは貴方の最も近い居場所を奪っている私への断罪なのですと言えば、きっと貴方は全てを捨てようとするのだから。寂しい王様、どうかゆっくりお眠りに。

「シン、おやすみなさいませ」
馬鹿だな、お前は。そう聞こえた時は今度こそ夢の中に入り込む時で食いつくことは出来なかったが、せめてもの犯行でおもいきり抱きしめてみればそのままそっくり返されてつい笑ってしまった。




アンケートでいただいた「ジャーファルさんは王様が好きなんだけど釣り合わないと思って夜な夜な泣いてたら」な話でした。遅れました・・・すみません
若干わけのわからないものになっておりますが、わざとひたすら文を羅列させてみました。ジャーファルの最初の部分だけシンと対になっています
お互いのことを思いすぎてっていうのもいいけれど、お互い抱えているものが大きくてうまく伝えられないもやもやシンジャもいいかなと・・・

リクエストありがとうございました!

2012.4.9

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