寵愛に白濁 | ナノ



この世界で息をしている生物の何割ほどが一体愛を知っているのだろうかとふいに考えてみたが、訪れてはくれない回答に期待するにも飽きて視線を戻す。戻した途端に奥を抉られるように押されてひゅ、と呼吸が漏れた。快楽と同時に与えられる息苦しさは未だ慣れることはなく、その感情はこの愛おしく悲しい王を受け入れる其処にきゅうと力を加えさせるだけだ。最初愛のない行為だと気づいたときにはもう遅く、さすがに死んでしまうのではないかというくらい体を打たれた頃には自分が何故そのような自体に巻き込まれているのか考えることすらも辞めていた。それが今では諦めではなく彼からの寵愛なのだと思い特別なのだと認知する。そうすれば、裂けそうなこの痛みも、あるはずなのに感じられない愛も何もかも彼がくれていると思えるようになった。
昔から彼から与えられた物は自分の永遠の財産だった。それは見える物から見えない何か様々であったが、それでジャーファルは生きてきた。それこそ彼がジャーファルの財産だった。

「考え事か?」
「えっ、っあ、〜〜〜〜っあ、ん、!!」
「ジャーファル、こっちを見ろ」
俺のことを考えろ、そう囁く唇も、この時間は自分だけのものだと思えばなんら辛くない。むしろ自分にとっては身に余る行為なのだ。そう言い聞かせてジャーファルはシンをさらに奥へ促す。濡れた襞をなんとか自分で収縮させれば自然に飲み込まれるシンの猛る性器を、愛おしそうに見つめる反面、なぜだろう、突然この孤独な王がとても悲しく思えてしまった。
「っひ!!シンっ、シン様ぁっ、あっぁっ、ぁ、ひ、ん!!!」
「ジャーファル、今日の朝のあれはなんだ?」
「ぁ、や、待って、なに、あ、あ、」
「シャルルカンと随分仲良く近づいていたじゃないか」
妬けたなぁ、いつもの口調で話すその姿とは裏腹にジャーファルの後孔をシンの肉棒がぐり、圧迫する。何度この王に脚を開いたか正直覚えていないが、その一瞬で彼の快楽を誘う一点を探り当ててしまう程、この二人は普段の関係以上の繋がりがあるのだろう。
王と政務官、表上はその関係一言に尽きる。以前ならば家族という表現が最もだったのだがそれがある日を境に変わってしまった。それはジャーファルが心の小さな隙間で望んでいた事だったのかもしれなければ、王であり彼の兄のような存在であったシンドバッドもそれ然りだった。初めて抱かれた夜は至って甘かった。それはジャーファルも覚えている。それはよかった。それじゃない。

数年前、とある戦をきっかけに王である彼の周りを取り囲むものが変わった。それは環境はおろか彼の全てを守る鳥たちすら黒く染まってしまったことも関係している。半分堕ちたその体を支える光は一体なんだったのか今ではわからない。あの頃はまだ耐えていた王は、無邪気に笑っていたあの頃の王は今この世界にはどこを探しても見当たるものではない。
「っいた・・・!シン、シン、やです、し、嫌、や」
「この前刻んだ名前は見えない部分だったからなぁ、意味がなかったか」
「シン、やめてくだ、さ、っあ・・・ぅ」
「ジャーファル、今度はこの辺にどうだろう。お前の肌は白いからここなら映える」
つぅ、と触れられた首筋にぞっとした。同時に背中が激痛を伴う。ジャーファルの背中に刻まれた名前は呪縛のように彼を束縛し、痛みを持って拒絶すらを拒む。赤く爛れた其処は肉が盛り上がりここ数日の間に鋭い刃で切り刻まれた証なのだと把握できる。
死んでしまうと思ったあの夜、彼はジャーファルに愛の言葉を並べてその行為を行なった。しかし体を走るその鋭い痛みが減少するわけもなく、ジャーファルは涙を零しながらシンドバッドにしがみつきそれを何も言わず受け入れた。そうすれば、王は満足げな顔をして再び愛の言葉を並べてきた。それがジャーファルの枷だった。この王は私を愛してくれている。私が彼を愛せずしてどうするのか。二人の関係は生半可に出来た物ではない、その分簡単に逃れることなどできない最大の籠だった。
あの行為を今度は首筋に施される。今度こそ死んでしまうかもしれないと怯えたジャーファルは必死に抵抗する。しかし繋がった其処を思い切り突き上げられャーファルは甲高い悲鳴を上げてくたりとシンになんとか縋り寄ることしか出来なかった。

片隅に置いてあった眷属機を握る気配がする。彼を守るために存在する刃を、その愛しい王が自分に突き立てる。愛してくださっていての行為。
「痛いか?ジャーファル。ああ、そうだな・・・この前は何も我慢させるものを与えていなかった。つらかっただろう・・・」
「シ、ン、シン、さま、あ、っひ、ぃ。 あ・・・っ」
「大丈夫だよジャーファル。ちゃんと気持ちよくなるさ」
「!?っや、シン、待って、怖い、や、し、だめ、やだ、あ、あ、あっ」
「こうしてれば痛みなんてわからないだろう?」

(いたい、いたいにきまってる、あんたはしってる ずるい、ずるいひと)

刃の輝きが怖いのは、情けない話だと自分でも思っている。それでもそれが露にならないのは自分の大事な存在に向ける刃などただの銀に過ぎないから。そんな愛しいこの王が、今度は私にそれを向けている。私が抵抗できないことを知っている、ずるいひと。そんな彼に上辺の否定しか返せない自分はなんと滑稽か。汗でくっついた月色の髪の毛の指で払われて冷たい無機質がひたりと首筋にあてられる感触がしていよいよジャーファルはシンに黙って抱き着いた。それを肯定と踏まえたシンが、腰を動かす。ぢゅぷ、ぐぷぷと厭らしい水音はジャーファルの耳と脳を支配して、瞳から光を失わせた。
「っぃ、ああああああああああああああああああ」
「ジャーファル・・・っ声はあまり出すな」
「あああああ!ああ、あ!あああ、っ!?ん、あっ、あん、あっあっ・・・!あ、し、シンん、」
「ああほら、暴れると名前がずれてしまう。おとなしくしろジャーファル」
「ひぎっ・・・、!!」
皮膚がちぎられてゆく感覚に意識を飛ばしそうになる。首筋から胸までを赤い血が滴り落ちてゆく、何が一番ずるいか。殺してはくれないのだ。どんなに闇に堕ちたその心でもこの王は自分を殺さず、死なぬ程度に所有の証を残していく。幼い頃の生業柄人間の急所はほぼ全て知っている。首筋のように狙い處によっては一瞬で命を絶たせる事の出来る部位を敢えて苦しみを伴わせて生を背負わせるこの行為が辛く、どこか愛しいと思う。

「は・・・っふ、ぐ・・・はー・・・っ、は、・・・っぅあ、ん・・・!」
「ジャーファル見ろ、綺麗に彫れた」
「あ・・・っあ・・・、シ、ン、や・・・いたい・・・いたい」
「血が出てる、大丈夫だ、ちゃんと止めてやるから」
「いた、し、くるし、いた、っあん」
「お前はこうでもしないとどこかに行きかねないからなぁ」
何がそう連想させているのかわからない。出会った時からずっと側にいたというのに自分の何がこの王の不安を煽っているのか全くわからない。それでもこの孤独な王が必要とするのは今は自分だけなのだ。彼は自分を殺さない。苦痛を与えて束縛する。

「ジャーファル、ジャーファル」
「っあああぁ!やっ、ひ、ぁ、あっあっ」
一点をぐりと押され先ほどの苦痛とは別の感情が訪れて体をぶるりと震わす。この感覚は知っているものでシンの胸に腕を突っぱねて行為を終わらせることを要求すると、嫌な笑みを見せてずるりと猛る性器をぎりぎりまで引き抜かれた。しかしそこから完全に抜ける様子はなく、後孔の浅い部分をまるで形どらせるかのようにそのまま動かなくなった。その間にも訪れる違う快楽を求め痛みではない生理的な涙があふれてくる。
「シン、だ、め、ぬい、くらさ、ぬいて、」
「ダメだ、どこに行く?」
「、・・・ふ、・・・っあん、・・・ふ、不浄、です・・・っ」
「ああ、なんだそんなことか。ここですればいいだろう?」
「!?やだ、シン、」
「嫌?ああそうか、汚いと思ってるんだな・・・大丈夫だからほら、このまましなさい」
「やだっ嫌です、シンさま、・・・っあああああ!」

名前の彫られた首筋をべろりと舐められて激痛が再び訪れる。出血はシンの魔力で無理やり止めただけであって痛みは何も変わらない。反射的に悲鳴を上げると同時に入口まで挿入されていた性器が勢い良く奥を突かれる。
「っひああぁ・・・っ あ、・・・あ・・・っや・・・や、だ・・・っ」
ジャーファルの自身から精液とは違う黄色い液体が溢れ出る。我慢していた快楽の解放にぴくりぴくりと涎を垂らしながら自分の腹部が湿ってゆく。つながったまま体を起こされシンの胡坐の上に乗る形になった状態でも尿意は完全に抜け切らず、今度はシンの足元を濡らしていく。
しまったと意識を正常に戻した時には首筋の激痛は少しだけ収まってはいたものの今度は死にたくなってくる。本来なら謝罪を受ける立場であるはずのジャーファルがシンの体にぐったりとすがりつき必死に謝罪の気持ちをつぶやく。結局不安なのは自分なのだ、嫌われることも一人になることも怖いと思っているのは自分で、彼のこの行為を愛しいと思っているのも自分。
自分はそれが出来ないから、受けることで愛を償おうとしている自分が一番おかしいのかもしれない。

「ごめんなさ、シン様、ごめん、わた、お、俺、ごめんなさ」
「ジャーファル、こっち向け。何も怒ってないだろう?」
「でも、おれ、あなたの、うえ、に」
「お前のだからなんでもないさ。ジャーファル、ジャーファル」
「、・・・はい・・・」
「これからは仕事以外の時はシャルルカンとは何も話すな」
「え・・・」
「どうも俺はお前が他の奴と話しているのを見ると心が黒くなる。お前を傷つけてでも閉じ込めたくなる」
お願いだ、そう言われて肯定も否定もできず寄り添うだけの行為をすれば幸せそうな顔をしてこちらを見る。アラジンには見えるのだろうか。今この王の周りを飛んでいる鳥たちは笑っているのか、泣いているのか。そんなことは自分にはわからないし、わからなくとも構わない。
この王が自分を必要としてくれるのならそれだけでいい。

「シン、さま」
「ジャーファル」
「・・・あなたが望むのなら、私はもうどこへも行きません。政務だって、自室で行います、すべては、わたしの・・・おれのすべては」

あなたのために。
光を失った瞳が捉える孤独だった王は、懐かしい笑みを見せてジャーファルの首筋に口づけを落とした。


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