童話ぱろでぃ | ナノ


▼ 赤ずきんイリア2

「……ふぅ、こんなもんかしら」

 赤ずきんイリアは額の汗をぬぐい、満足そうに呟きます。
 バスケットの中には色とりどりの花が隙間なく並んでいました。
 リズおばあちゃんの喜ぶ顔を思い浮かべていたら、時間を忘れて花摘みに夢中になってしまっていたのです。

「さて、そろそろ行こうかしら」
「ゲヘヘ……」

 赤ずきんちゃんが立ち上がると後ろから妙な笑い声が。
 振り返るとエメラルドグリーンの髪から黒い獣耳を生やした男が立っています。
 スケベ心を隠しきれていないような笑い方に、赤ずきんちゃんは顔を思いっきりしかめました。

「その笑い方やめて、キモいわ」
「お前にだけは言われたくねぇよ!」
「で、お坊っちゃまはどうなさったのですか?」

 にやにやと悪どい笑みを浮かべる赤ずきんちゃんに、獣耳のスパーダは威嚇のポーズをとります。

「見てわかんねーのかよ! オオカミだよオオカミ!」
「へ?」
「あ?」
「んなわけないでしょ」
「なんでだよ」
「だってあたしオオカミに会ったもん。虫酸が走るフリフリレースのオオカミにね」

 その言葉に自称オオカミはポカンとします。開いた口が塞がりません。
 何事かと赤い目を丸くする赤ずきんちゃん。二人の頭上にはハテナマークが仲良く浮かびます。

「でもよぉ、オレはオオカミ役を頼まれたんだぜ? あの殺人鬼野郎のワケねーだろか」
「あいつ自分でオオカミって言ってたわよ? 花摘んで持ってけって」
「花ぁ?」
「おばあちゃんに見せると喜ぶだろうって」
「ばあちゃん役って誰だっけ」
「え? リズだけど……」

 醸し出されるぐだぐだ感は、打ち合わせをしていない演劇のようです。
 しかし話の本筋を思い出したスパーダは冷や汗を流しました。

「じゃあ、ハスタの野郎はリズんとこに向かったのかよ」
「……、あ」

 二人は顔を見合わせます。
 そしておばあちゃんの家を目掛けて駆け出しました。




「つーかまえた」

 一方そのころ。連載夢主ことリズおばあちゃんにはピンチが訪れていました。
 事を起こした張本人であるニセオオカミのハスタは、楽しげに口角を上げて彼女を見下ろします。

「……」

 お決まりのようにベッドに組み引かれてしまったリズおばあちゃん。両腕を頭上で押さえられ、それでもハスタを睨み付けていました。
 この状況をどう打破しようかと思考を巡らせますが、焦れば焦るほどいい案が浮かびません。

「ムダムダ。諦めなさいよお嬢さん。こういう展開を読者の方々は望んでいるんだぽん」

 メタ発言全開のハスタの顔が近付いてきます。
 抵抗しようと腕に力を入れてもビクともしません。

「さあ、授血の時間デス」

 ニセオオカミはリズの耳元に唇を寄せ、低く甘い声でゆっくりと呟きました。



2012.03.22

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