童話ぱろでぃ | ナノ


▼ 灰かぶりルカ3

「お城に来たのはいいんだけど、なんか居心地が良くないなぁ」

 人が行き交う大広間。ウェディングドレスを身に纏う男の娘が、キョロキョロと周りを見渡しながら独り言を呟いています。
 ため息をつくルカですが、ドレスの裾を軽く引かれる感覚に後ろを振り返りました。

「え?」

 緑色の瞳を見開きます。なぜなら視線の先に王子ルックの知り合いがいたからです。

「リズ!」

 男装王子はルカの目を見つめたままこくりと頷き、どこからかメモ帳と羽ペンを持ち出し馴れた手つきで文字を書き始めます。

 なんでウェディングドレスなの?
「ちょっと某聖女に……」

 文字を読んで力無く答えるルカと、納得したように苦笑するリズ。
 彼女は再びサラサラと羽ペンを滑らせます。 

 似合ってるよ。
「僕としては普通のやつが良かったよ」
 さっきスパーダくんに会ったけど、フリルがたくさん付いたピンクのドレスを着てたよ。そっちの方が良かった?
「……それはそれで嫌だな」

 可笑しそうに笑う王子に、男の娘もつられて笑顔になります。

 ねえルカくん。せっかくだから1曲踊ろうか。
「えっ! でも……」
 いや?
「とんでもない! というか、僕なんかでいいの?」

 こくりと頷く彼女に、ルカはじゃあと言って手を差し出します。リズはその手を取りました。
 音楽に合わせて踊る中性的な男装王子と銀髪の男の娘というツーショットに、周りの視線が釘付けになります。

「くっ、アスラ様が……っ!」

 柱の影から黒髪の少女がハンカチをかみ締めています。
 どれくらい踊っていたでしょうか。楽しい時間は過ぎるのが早く、パーティーも終盤に差し掛かってきました。

「……あ」

 ふと大きな時計が緑色の瞳に写ります。もうすぐ二つの針が重なり合い、真上を指そうとしていました。
 しがない村人は魔法使いに言われた言葉を思い出します。12時に、魔法が解けるということを。

「ごめん! 僕もう行かなきゃ」

 ルカの呟きにリズはパッと手を離しました。

「随分ものわかりがいいね……」
「、」
「じゃあ」

 そう言ってその場を離れるルカ。もちろんドレスの裾はつかんで走ります。
 時間がない。焦った彼は階段を駆け下りていきます。しかし、 

「あっ」

 ガラスの靴が片方、まるで初めからそうなる運命だというように脱げてしまいました。
 ルカは振り返ります。しかし時間が迫り、戻ることを諦めそのまま去っていきました。

「……」

 しばらくして、階段には瑠璃色の髪の王子が姿を現しました。
 王子は驚くこともせずガラスの靴を拾い上げ、そのまま何事も無かったかのように城に戻っていきます。
 鐘の音が空気を震わせ、時計の針が真上を指しました。



2012.01.17

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