▼ 灰かぶりルカ2
真っ黒衣装の聖女アンジュは、アップルグミをカボチャ型の乗り物に。そしてオタオタを褐色肌の少年へと変えました。
「なっ、なんでボクはこんな所にいるんだ!」
「シアン君、仕事よ。ちなみに拒否権はないわ」
アンジュが可憐な笑みを見せます。
「次はルカ君のドレスね」
「おいおまえら!」
「はぁ……もう適当でいいよ」
「ボクを無視するな……っ」
「駄目よ、パーティーに行くんだからそれなりの格好をしなきゃ。じゃあそこに立ってね」
シアンの叫びも虚しく、アンジュはルカの肩に短剣を当てます。ルカは小さく声を上げましたが、そんなのお構い無しです。
「行くわよ。どっこいしょ!」
「なにそのかけ声……」
ルカの気の抜けた声と同時に彼の体が光を放ちました。
光が徐々に消えていき、そこには純白のドレスを身に纏った男の娘の姿が……。
「ア、アンジュ! これウェディングドレスじゃ……」
「ふふっ、素敵よルカ君。じゃあお城へ行ってらっしゃい」
「行ってらっしゃいじゃなくて! せめて他のにしてよっ」
「シアン君はケルとベロを呼んで、ルカ君を連れていってあげてね。ちなみに魔法は12時に切れるよ。気を付けてね」
青ざめるルカとシアンを置き、仕事を定時で終えた聖女様は去っていきました。恐らく彼女はケルとベロが来る前に逃げたかったのでしょう。
「……」
「……」
無言の少年達は互いの顔を見合わせ、同時にため息を吐きました。
ところ変わってお城のパーティー会場。
美しいドレスや燕尾服を身に纏った王族や貴族達が、それぞれ優雅なひとときを過ごします。
「うひゃあ! 肉よ、肉があるわっ。ほらスパーダこっち!」
「お前ドレスなんだからそんな歩き方すんなよっ! ……お、あの子カワイイじゃん」
優雅のゆの字もない姉たちもパーティーを楽しんでいるようです。
ゴツい方の姉がよそ見をしながら歩いていると、彼の体に突然何かがぶつかってきました。
「ぅおっ!」
「っ」
「すまねぇ……って、リズ!?」
灰色の目が見開かれます。そこには髪を一つに結い豪華な衣装に身を包む、王子様ルックの連載主人公の姿がありました。
彼女はオレンジがかったピンクの瞳をぱちくりさせます。しかしすぐに状況を理解して軽く微笑み、ひらりと手を振ってその場を離れていきました。
「って待てよ!」
「あ、今のリズじゃん」
「悪ぃイリア! オレちょっと行って……」
彼が言葉を言い切る前に、会場にはピンポンパンポーンと安っぽい放送音が流れます。
「あー、コホン。紳士淑女の皆様。今宵はリーネル城にお集まり頂き、誠に感謝致します」
「今度はオッサンかよ!」
「お食事や談笑の最中かと思いますが、これよりホール中央にてダンスパーティーを開催致します。素敵なパートナーとの潤いのひとときをお楽しみ下さい」
渋い声のアナウンスが終わると、会場にはメロディが流れ始めます。同時に人の波が会場中央に向かって流れ始めました。
「っ、」
流れに遮られ、スパーダはリズの姿を見失ってしまいした。
2011.12.18
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