▼ 人魚騎士スパーダ1
※ベルフォルマ兄弟捏造あり。
むかーしむかし、海の底には人魚の都がありました。
中心部にそびえ立つベルフォルマ城には、なんと七人もの兄弟人魚が住んでいたのです。
「マジありえねェ」
現在不機嫌そうに顔を歪ませているはベルフォルマ家の末弟、名をスパーダといいます。スパーダはブスッとした表情を兄達に向けました。
「スパーダは何が気に食わないっていうんだい?」
「そんな顔してると顔が歪んで力が出なくなるぞ」
「だーっ! 余計なお世話だっての! 全部が気に食わねェんだよ!」
苦笑をもらす四男と面白がる五男にスパーダは声を荒げます。
「なんでオレが人魚なんだ!? 明らか需要ねぇし! 綺麗な女がやれば目の保養になるってモンだろーがよぉ……」
どうやら主役に抜擢されたことと、スケベ心が満たされなかったことへの不満・不服に溢れかえっているようです。世の中うまくいきませんね。
「仕方ねーだろなっちまったモンは」
「むしろ俺達なんて本編出番無しなのに、何が悲しくて人魚の兄役に抜擢されなきゃいけないんだよって話だ」
次男と長男が慰めだかなんだかわからないような言葉を吐きます。
「てかスパーダ。お前今日誕生日なんだからさっさと外界行ってこいよ」
「そうだぞ。そんで当分帰ってこなくていいぜ」
六男の催促に三男が同意。彼らの意地の悪い態度にスパーダは顔を歪めました。
「言われなくても出てってやるさ! 兄貴達よりも立派な騎士になって帰ってくっから覚悟しとけよ!」
そう、ベルフォルマ家は騎士の家系。十七歳の誕生日が来ると、下界に出て騎士としての修行をせねばなりません。
今日が誕生日のスパーダも例に漏れず、彼は飛び出すように海面に向かって泳いでいきました。
「ぷはっ」
揺らめく海面から顔を出した末弟人魚。頭上には青々とした空が広がり、白い海鳥達は青空という海を優雅に泳いでいます。
「ったく、ようやく自由になれたぜ」
不良人魚は城にいた時の息苦しさから開放され、ホッと胸を撫で下ろしました。
「……ん?」
しかし何かに気付いたスパーダは一点を見つめます。
遠くに浮かぶ大きな客船。目を凝らせば船の甲板に、王子様ルックに身を包んだ連載夢主リズ・リーネルの姿がありました。
「あ、リズ」
短く呟くスパーダ。オレンジがかったピンク色の瞳と視線がかち合います。手を大きく振れば、リズも頬を緩ませて小さく手を振り返しました。
しかし次の瞬間、彼女は驚くべき行動を取ったのです。
甲板の手すりからヒョイと身を乗りだし、迷うことなく海に落下。大きな音を立てて水しぶきが上がります。
「はぁ!? っの……バカッ!」
スパーダは素っ頓狂な声を上げましたが、状況を把握すると同時に自身も海に飛び込みリズの救助に向かいました。
2013.01.18
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