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▼ 赤ずきんイリア4

「なんだか大変みたいだったけど……大丈夫かい?」

 窓から無事脱出できたリズおばあちゃんに、手招きをした人物が穏やかな口調で尋ねます。
 黒く柔らかそうな髪は肩上で切り揃えられ、紫色の瞳を持つ中性的な顔つきの青年。
 彼は一体何者なのでしょう?

「ボクかい? ボクは通りすがりの狩人だよ」

 リズおばあちゃんの視線に、見知らぬ相手は心の中を読んだように答えます。
 確かに言われてみれば、革製のベストや質素な帽子など、衣服はどことなくそれらしいものです。

「……」

 しかし服装と彼独特の雰囲気がアンバランスな感じがしてなりません。妙な違和感がリズを襲いました。

「ところで」
「?」
「そろそろ服を直してもらえないかい。その、目のやり場が……」

 自称狩人は目をそらしながら呟きます。
 考え込んでいたリズは慌てて胸元のボタンを留め始めました。
 衣服を整えて一息つくと、謎の狩人は目の前にいる彼女に問いかけます。

「そういえば君の名前は?」
「……」
「……リズ?」
「、」
「リズさんっていうんだ」

 相手の手を取り『リズ』と指で書いてみれば、どうやら伝わったようです。
 リズおばあちゃんはそのまま『あなたの名前は?』と質問をしました。

「ボクかい? ボクは……」

 狩人は名を言いかけ、ピタリと止めます。
 紫色の瞳は近くの茂みを映していました。

「?」

 状況が理解できないリズおばあちゃんは頭にハテナマークを浮かべます。

「……ああ。なんでもないよ」
「……?」
「ちょっとやることを思い出してね。あの家の騒動もそのうち落ち着くだろうし……ボクはこのあたりで失礼するよ」
「、」
「君とはまた話がしたいな。いずれ……ね」

 謎の狩人はやわらかく笑い、ふくみのある言葉を残して茂みの中へと消えて行きます。

「……」

 姿が見えなくなり、結局名前を聞いていないことを気付いたリズおばあちゃん。
 しかし背後から足音が聞こえ、くるりと振り返ります。

「ああ、リーネルか」

 リズおばあちゃんは目を丸くさせます。黒き傭兵が視線の先にいたからです。
 しかし現在の彼は黒くありません。
 革製のベストに質素な帽子、背に携えているライフル。そして体を纏う硝煙の香り……。
 十人中十人が『狩人』を連想させるような姿で、リカルド・ソルダートは立っていました。

「そろそろ出番かと思って来てみたんだが」
「……」
「あの家の乱闘騒ぎはなんなんだ? あと何故狩るべきオオカミが二匹もいる」

 狩人は真顔で問いただします。
 オオカミだけじゃなく、なんと狩人も二人いましたよ。
 そうリズおばあちゃんは心の中で呟き、一人青空の下で困ったように笑いました。
 めでたしめでたし?



2012.08.20

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