企画部屋 | ナノ


▼ 旅人達の戯れ



「みんなでしりとりせぇへん?」

 月の輝く夜空の下。火を囲い野外での夕食を終えた仲間達に、エルマーナはなんの前触れもなく声をかけた。

「くだらん。ガキは早く寝ろ。でかくならんぞ」
「でも息抜きにはいいんじゃね?」

 スパーダの一言にアンジュは同意を示し、リズはこくりと頷く。
 返事を渋るリカルド。そんな傭兵に雇い主は諭し始めた。

「仲間の絆を深めることは大切ですよ。普段からチームワークが良いと戦い連携に表れると思います」
「、」
「ほら、リズも頷いてますし」

 雇い主に言い返すことを諦めた傭兵はため息をつく。
 それを承諾ととらえたアンジュはにっこりと聖母のような笑みを見せた。

「じゃあエルから順番にイリア、コーダ、ルカ君、リカルドさん、スパーダ君、リズ、私でいいかしら」
「うっしゃ! じゃあウチからな」

 こうして旅人逹の戯れが始まった。

「しりとりー」
「り、りぃ? あ、リカバー! コーダは『あ』ね」
「あー、あげパン!」
「終わったじゃねーか」
「さぁガキ共、就寝時間だ」

 意地悪に笑う揺るぎない傭兵にリズは苦笑する。

「もうリカルドさん! 大人げないですよ」
「ったく、あんたルール知らないんだから、これでも大人しく食べてなさい」
「わー、りんごか!」

 飼い主に餌付けをされたコーダはしゃくしゃくとりんごを食べ始める。
 コーダを脱落と見なし、残念がるエルマーナのために残りのメンツはしりとりを再開した。

「じゃあルカ。『あ』からね」
「うん。あ、ア……ップルグミ。次はリカルドだよ」
「味方を蘇生しろ」
「それ作戦名やん」

 戦闘時の作戦名を口走るリカルドにエルマーナがつっこむ。
 終わる兆しが見えないので単語以外はアウト、というルールが加えられた。

「仕方ない。ならミスティックボアだ」
「あ、……秋沙雨」

 スパーダと視線が合い、リズはまた木の棒を握る。
 地面に『め』と三回ほど書き、ようやく頭に浮かんだ単語をカリカリと土に書き始めた。

「メンテが簡単な銃?」
「、」
「なにそれ」
「んー……、ギルドにあるクエスト用の銃って書いてるわね。正式な登録名みたいだからセーフかな」
「、」
「次はわたしね。ウィークボトル」
「ル? ルカにー」
「お」
「お?」

 にやにや顔のイリアとスパーダに気付き、エルマーナが慌てて「ルカ」と言い直す。

「ルカ、か……。ガでもいい?」
「いいと思うよ」
「ガルド!」
「イリアらしいなぁ。と、トリート」
「トレント」
「トを何回まわす気だよ! ……、トリュフリゾット」

 してやったり。そう言いたげなスパーダの笑みに、リズはむっと眉を寄せる。

「……」

 無言で脳内にある単語を引き出し、彼女は『ドラゴンキラー』と書く。ギルドポイントで交換出来る大剣だと付け足すことを忘れない。

「あ、ね。アップルパイ」
「アンジュ姉ちゃんお腹すいたん?」
「エル」
「ちょ、そんな怖い声出さんといて! イ、イリアねー……やなくて、イリア」
「ありがとエル。あ、ア、……アンジュ!」
「あら、嬉しいわ」
「次はユかぁ……雪」
「ギョギョント」
「またトかよ! おっさん狙ってんだろ!」
「ふっ、何のことだ?」
「こいつ……。毒」

 投げやりに言うスパーダ。
 リズはくすりと笑い、ふと思い付いた双剣の名を地面に書いた。

「クサナギノツルギ?」
「、」
「これもギルドの?」
「、」
「リズってほんとギルドに生きる人だよね」
「もっと可愛げあるやつ言えよ……いっ」

 リズは呆れ気味に呟くスパーダの手をぺちんと叩く。
 そんな二人をまんまるな目が見つめていた。

「?」

 その正体は餌付けをされていたイリアのペット。りんごは胃袋に納まったようだ。

「なんだよコーダ」
「しかし、これいつ終わるんだ?」
「そりゃあ、誰かが最後に『ん』って言うまで……」
「じゃあ誰が言うんだ? しかしコーダはもう満腹で眠いぞー」

 純粋な疑問をぶつけてくるコーダに仲間逹は互いの顔を見合わせる。
 沈黙の中、リカルドがぽつりと呟いた。

「……寝るか」

 彼の一言にエルマーナ以外が同意。不満げな少女にアンジュはまた今度やりましょうと告げ、その場を丸くおさめる。
 旅人逹の戯れは、あっけなく幕を閉じた。



2012.07.14

『TOIメンバーで仄々夢』というリクエストを頂きました。
皆でわいわいということで、何故かしりとりに。
夢主が空気ですみませんっ。リクありがとうございました!

/

[ 戻る ]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -